シズヲ

ストレート・トゥ・ヘル:リターンズのシズヲのレビュー・感想・評価

3.5
車で逃走していた4人の銀行強盗が、荒野のど真ん中で“無法者の町”へと迷い込む……。タイトルは“リターンズ”だけど別に続編とかではなく、後年に作られたリマスター&ディレクターズ・カット版みたい。

元々アレックス・コックスが企画していたコンサートツアーが諸事情で中止になったことをきっかけに急遽制作された映画とのこと。結果としてジョー・ストラマーやコートニー・ラヴやザ・ポーグスなどの面々が出演し、ミュージシャン勢揃いのキャスティングとなっている。そのうえジム・ジャームッシュやデニス・ホッパーなども出てくるので、“パンクな著名人が皆で集まって作ったインディーズ映画”感が凄まじい。

絵面からしてマカロニ・ウエスタンの影響が明らかに色濃く、スペイン・アルメリアというロケーションや荒野の寂れた町並みのセットには懐かしさすら感じる。村や住民達の荒んだビジュアル、突発的な銃撃戦など、薄汚く暴力的な世界観も大分マカロニ感がある。粗筋も『情無用のジャンゴ』から着想を得ているらしく、大金を巡って諍いが起こることや村全体が異様なコミュニティと化している辺りは実際それっぽい。奇人変人のならず者揃いなのに、村全体でコーヒーを嗜んでいるのが笑う。

制作の経緯もあってか終始奔放な映画で、大まかな粗筋に沿いつつも何処か気ままにシーンを繋げているような趣がある。ナンセンスやバイオレンス、ブラックなユーモアが全編に渡って顕著であり、そうした無軌道な場面が継ぎ接ぎの如く繰り広げられていく。良くも悪くも、制作サイドの撮りたいアイデアを好きに撮り続けているような緩さがある。更には名だたるミュージシャン達がアクの強い登場人物を演じていること自体が一種のギャグと化している気がする。たぶんミュージシャンへの思い入れが薄いと変なB級映画でしかないけれど、仲間内で楽しく作っているであろうことが伝わってくるので憎めなさもある。

何やかんやで楽しい映画だけど間違いなく珍作で、出来が良いかと言われれば変な映画としか言いようがない。後に残るものはあんまり無いが、終盤の混沌とした大殺戮銃撃戦は(レオーネじみた決闘シーンも相俟って)謎めいた清々しさがある。それはそうと“タランティーノに影響を与えた作品〜”的な謳い文句、そもそもタランティーノの珍作発掘能力が尋常じゃないのでどちらかと言えば“変な旧作は大抵タランティーノも既に見ている”感がある。
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