@ シネ・ヌーヴォ ~フィルム・ノワールの世界vol.5~
あんなに明るく楽しそうだった家庭と家族が「ざざ…ざざ…」という足音で一気に暗くなり、演出以上の恐怖をわたしたちに植え付ける。光が現在の幸せならば、その足音と差し込む影は過去の後悔を物語っているようだった。
光と影、そして音の主張。どれだけ幸せに満ちた世界に生きていても、誰も悪くないのに誰もが傷付き、決して消えない爪痕を残すもの、それが戦争だ。過去のあなたがどんなことをしていてもわたしはあなたを愛している。愛する女のことばが彼らに届くことはなく、自らのおこないに自らが罰をくだすことでしか自らを、愛する人を救えない。これはノワールの姿を借りた反戦映画だ。素晴らしかった。そしてやるせなかった。しばらくはあの足音が耳から離れそうもない。