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ファーゴのRenのレビュー・感想・評価

ファーゴ(1996年製作の映画)
3.5
愚かで考え無しな馬鹿どもが至って真剣にボケ倒す白銀鮮血トラジコメディ。コーエン兄弟は『ノーカントリー』しか縁が無く今作も初鑑賞だった。面白いには面白いけどそこまで絶賛に染まる映画でもなかったかなと思ってしまった。

愚か者が策に溺れ絶望の一途を辿る不幸エンタメが大好物な自分としては、アガらない理由の無い脚本。誰かが死ぬ度にいいぞいいぞもっとやったれとテンションが上がっていく。「映画で出てきた雪は鮮血に染まるべき」信仰の身としても、視覚的にとても満足な出来栄えだった。

それだけにどうしても消化不良な点がいくつかあって、「作中で起こる悲劇の殆どが狂人の癇癪によるものである(歯車が噛み合う/狂う 快楽が薄い)」「あらゆる悪事が終盤10分で特に蓄積も脈絡も無く解決される」辺りにあまりノれなかった。この映画大好きかも!と思う手前で熱がしゅんと冷めてしまう感じ。

作品のテーマは、嘘を通して嘘ではない日常の尊さを感じることだと解釈した。狂言誘拐から始まり、ランディガード(ウィリアム・H・メイシー)は嘘の証言で己を塗り固め、旧友はなんやかんや理由をでっちあげて距離を詰めてこようとする。自身の周囲に嘘が蔓延していく中で、妊娠中のマージ(フランシス・マクドーマンド)が自分の子どもや優しい夫のいる日常を噛み締める、かなりミニマルなお話なのではないかと思う。金のために法を犯すバカを見て、実直に生きる自分を知る。
冒頭の「この物語は実話である」というテロップが、この映画を単なる他人事エンタメから自分事へ昇華する。ただテロップが嘘だと知ってしまっている自分たちにはあまり意味が無い。

どうしたって想起してしまうのは、『その土曜日、7時58分』。こちらはオールタイムベストの一作だけど、『ファーゴ』がここまで評価されるなら年代の違いこそあれど『その土曜日 ~』ももっと評価されてほしいなと感じてしまったり。個人的には、不幸エピソードの手数やシニカルな演出方法などあらゆる面で後者のほうが一枚上手だと感じた。

その他、
○ 上映時間3分の1を過ぎてようやく登場するフランシス・マクドーマンド。歴代のアカデミー主演女優賞受賞者の中でも、出演時間はかなり短い方だと思う。
○ なぜか「助演」でノミネートされたウィリアム・H・メイシー。物語の構造的に、彼のほうこそが主演ではないのか?
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