◆あらすじ◆
1960年代のアメリカ、黒人の少年のエルウッドは偶然、乗せてもらった車が盗難車であったことから運転手の共犯として逮捕され、更生施設「ニッケル・アカデミー」に送られる。そのアカデミーでは運営者たちによる黒人への暴力や虐待が横行しており、そんな中、エルウッドはターナーに出会い、施設内で生き抜く術を教えられる。
◆感想◆
冤罪で更生施設に送られた少年が施設内で様々な人種差別を経験していく姿を描くとともに、その施設で知り合った少年との友情を育む様子も描かれており、重いテーマながらも2人の親交が適度に作品の明暗のバランスをとっていて、直接暴力のシーンを映さないことも相まって、観やすい作品になっていました。
主人公のエルウッド(イーサン・ヘリス)は純粋で勤勉な少年であり、犯罪に絡む要素が一部もなかったのですが、冤罪で逮捕されて更生施設に送られるという不条理な扱いを受けます。エルウッドは保護者の祖母や弁護士により助けられるものと確信していたものの、更生施設の運営者たちによってその願いは阻まれます。エルウッドは公民権運動など黒人の権利の回復を信じる純粋さがあり、運営者たちと戦おうとする意思が彼の思いの清廉さと同時に身の危険を感じさせる危うさをもっているように感じました。
そんなエルウッドに対して施設での生き方に精通しているターナー(ブランドン・ウィルソン)が世話を焼いて、彼によってエルウッドの危うい部分を上手くカバーしてもらいます。ターナーは施設の理不尽さや怖さを良く知っていることもあって、あまりに純粋なエルウッドが放っておけなかったように私には見えました。
本作の特色として、エルウッドやターナーの視点でストーリーが進行していき、彼らが体験することを直接的に感じるようになっており、それが本作の臨場感を高めていました。この描き方では観ている側に「自分だったらどう思うか」という心理をもたらしており、黒人差別の理不尽さを強く感じることができました。
更生施設「ニッケル・アカデミー」では黒人の生徒たちに自由や権利はなく、教師など白人の運営者が全てに服従することが求められており、その理不尽さは凄まじく、当然のごとく体罰を行っていて、当時の人種差別の強い社会の縮図となっていました。その結果、亡くなる黒人の少年もいて、更生施設とは名ばかりの犯罪の隠蔽組織にしか見えず、とても腹立たしかったです。
ストーリー終盤にエルウッドとターナーは行動に打って出るのですが、その展開の緊迫感が凄まじく、「捕まったら殺されるのではないか」という怖さを感じました。
前述しましたが、本作は重いテーマながら直接暴力を行うシーンを映さず、音のみで観る側に想像させる形で理解できるように施されていて、少年たちが暴力を受ける残酷さを軽減していてとても観やすかったです。細かな部分ですがこのような配慮をして観る側への心理的負担を減らしてくれているのはとてもありがたかったです。
1960年代当時の黒人差別の凄まじさを体感できる作品となっており、人種差別の愚かさを強く感じました。観て良かったと思います。
鑑賞日:2025年3月27日
鑑賞方法:Amazon Prime Video