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妖怪大戦争のbackpackerのレビュー・感想・評価

妖怪大戦争(2005年製作の映画)
4.0
「僕は、生まれてはじめて、真っ白な嘘をついた。自分のためにつく嘘が、真っ赤な嘘。他人のためにつく嘘が、真っ白な嘘。それが、大人への入り口らしい」

ーーー【あらすじ】ーーー
両親が離婚したため、母の故郷・鳥取へ引っ越してきた都会っ子の稲生タダシは、田舎暮らしになじめず、都会育ちを理由にいじめられる日々を過ごしていた。
地元の夏祭りの夜、タダシはこの世の危機に現れ人々を救うという麒麟送子に選ばれる。
「麒麟送子に選ばれた子どもは、大天狗が住む山へ伝説の聖剣を取りに行くんだ。弱虫にはできないな」といじめっ子たちにバカにされ、意を決して山へ入ったタダシだったが、山には妖怪たちが待っていたのだった。
この出会いを経て、タダシは、古代日本の先住民族の怨念を力とする魔人・加藤保憲との戦いに巻き込まれてゆくことになる……。
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本作は、角川グループ60周年記念作品として。1968年に"大映妖怪三部作"の一本として公開された『妖怪大戦争』をリメイクした作品です。
大映がバブル崩壊等の煽りを受け借金まみれになり、徳間書店から角川に売却された後、角川映画(企画立案時は角川大映映画)の処女作として注力された、渾身の一作でもあります。

本作には、プロデュースチーム「怪」として、水木しげる。荒俣宏、京極夏彦、宮部みゆき、という日本を代表する妖怪第一人者4名が参画しております。
水木先生は"妖怪大翁"としてラストにちょこっと登場し、「勝ち戦?馬鹿言っちゃいけませんよ。まったくアホらしいにも程があります。戦争はいかんです。腹が減るだけです」というセリフで、我々に訴えかけます。
従軍経験者であり生涯戦争の愚かさを訴え続けた水木先生渾身のお言葉には、本作の全部をひっくり返すほどのインパクトがあります。
出演という点でいえば、豪華キャストもさることながら、やはり主人公・稲生タダシを演じる神木隆之介君の演技、この素晴らしさに目を奪われます。天才子役と言われただけあります。

タダシや川姫、川太郎等の妖怪たちが戦う相手は、『帝都物語』で平将門を復活させ帝都東京を滅ぼさんと暗躍したあの魔神・加藤!
加藤といえば。1988年に東宝が映画化し、その強烈かつ圧倒的な迫力で、一度見たら忘れられないインパクトを植え付けた嶋田久作さんの演じる加藤のビジュアルイメージがあまりにも有名ですが、本作にて加藤を演じた豊川悦司さんも(嶋田加藤のイメージを踏襲していることもあり)かなりのはまり役。
より現代的でスマートな加藤像が確立されております。

ラストシーンで、大人になったタダシ(津田寛治さんがタダシの父と2役)からは見えなくなってしまったスネコスリの前に、打倒された加藤が再び出現します。

これは、加藤という存在が、
・忘れられた者たちの怨念の集合体であり、不滅の存在であること。
・人々が再び歴史を忘れて安穏と暮らすようになれば、また蘇り厄災を呼び起こす。
という役回りであることを示唆し、同時に、本作が2001年公開の『ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃』(以下、GMK)とまったく同様の物語であったことを意味していると思われます。
加藤=ゴジラと見れば、GMKと殆ど同じようなストーリーテリングですからね。
GMKとの違いとしては、主人公の少年の一夏の冒険物語→ジュブナイル物という視点に、かつて子どもだった大人達へのメッセージや、一般大衆により馴染み深い"妖怪"(コミカルで親しみやすい存在としての妖怪)を加えたことが挙げられるかと考えています。

ちなみに、本作の翌年に制作された『小さき勇者たちガメラ』では、大人タダシ役の津田寛治さんが妻を亡くした父親役で登場。作品内容も本作同様のジュブナイルでした。
本作クライマックスの東京周辺の特撮等は、ガメラの特撮へと活かされているなと、見ていて実感します。
ということで、本作と翌年のガメラは、双子の作品と言えるのではないかと思います。
書籍・文献等読んだわけではないので、勝手な想像に過ぎませんが、この2作を続けてみていただければ、作品の持つ雰囲気等が通底していると実感いただけると思いますので、是非連続鑑賞してみてください。
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