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敵のKUBOのレビュー・感想・評価

(2025年製作の映画)
4.0
今日の東京国際映画祭は吉田大八監督最新作『敵』。コンペティション部門での上映だ。

『桐島』以降、吉田大八作品は全部見ているが、彼の作品でこれが一番好きだ。

全編モノクロ。引退した大学教授を長塚京三が演じる。

古い日本家屋で、一日のルーティンを淡々とこなす男。近作なら『PERFECT DAYS』を、もしかしたら小津安二郎まで遡ったオマージュか?パソコンも使っているし、現代の話なんだが、まるで昭和のようだ。

妻と死別した後は、外出もせず日々淡々と暮らしていた男だったが、ある時、教え子の女性が訪ねてくるところから、男の日常が変わってくる。

恩師に尊敬以上の思慕を持つ教え子に瀧内公美、常連客であるバー「夜間飛行」で働くオーナーの姪に河合優実。人生の晩年に突然現れた2人の若い美女が、男に煩悩を抱かせる。

それと並行して、死んだはずの妻が普通に自宅に現れる。黒沢清的な、彼岸と此岸が入り乱れる世界なのか? 何度も夢オチのような表現が繰り返されるので、どこまで現実で、どこからが夢なのかわからなくなってくる。

そして表題にもなっている「敵」。男のパソコンに送られてくるメールには「北から敵がやってくる」というメッセージが!「敵」とは何なのか?

吉田大八監督は筒井康隆の大ファンで「7割は筒井康隆で出来ている」と言っても過言ではないそうで、この摩訶不思議な世界は、男が認知症なのではなく、夢や妄想の世界に自ら進んで踏み込んでいっていると解釈しているそう。

定年退職後の、男の人生に立つ波風や煩悩を、主演の長塚京三が味のある演技で好演。素晴らしい。これだけで素晴らしいのに「敵」だけが違和感あるんだが、この「敵」の正体は何なんでしょう。これも死期を迎える老人の焦燥感の現れなのかしら?

何にしても、『桐島』の吉田大八がこんな枯た映画を撮るようになった。素晴らしい。ちょこちょこ顔を出す、スケベさも情けなさも、素晴らしい。
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