CHEBUNBUN

今日の空が一番好き、とまだ言えない僕はのCHEBUNBUNのネタバレレビュー・内容・結末

3.5

このレビューはネタバレを含みます

【日本のダブル・ボヴァリー】
動画レビュー▽
https://www.youtube.com/watch?v=z0W3yHlmLU8

2024年の東京国際映画祭にてコンペティションに選出されたものの、Xで全く話題となっておらず、洞窟さんの星評でも低評価だった気がす『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』がここに来てやたらと評判が良いので観てきた。これがトンデモ問題作であった。

大学生・小西徹が傘を差しながら校内を歩く。カットによる時間跳躍で晴天になりつつも彼は傘を差し続ける。日傘という体らしいが明らかに雨傘であり、ツッコミ待ちとなっている。ツッコミを待つように他者との関係を待ちつつも、やれやれ系男子である様を象徴するような場面からこの映画は始まるのだ。

やがて、授業で目撃した好奇の対象である女・桜田花に声をかけて情事が始まる。そこから運命の歯車が狂い始める。

有識者曰く、東京国際映画祭上映時に監督よりネタバレ禁止令が発令されていたため、ほとんど感想が出ていなかったそうだが、まさしくといった感じのネタバレ厳禁映画であり、その要素を知ると面白さが半減するタイプである。

青春キラキラ映画をメタ的に外していくスタイルを取る本作は、恋は盲目であることを象徴するように気持ち悪い恋情詠唱が次々と挿入されていく。その様は「ボヴァリー夫人」さながらであり、笑いすら込み上げてくる。だが、そこには日本の青春キラキラ映画における批判的な側面が存在するので侮れない。

小西徹が、浮ついた動きで桜田花と接する。授業で習った専門的な単語を言い合って眩い青春を謳歌する。その中で段ボールを使ったゴルゴダの丘ごっこを始める。しかし、銭湯バイトで彼に恋情抱くさっちゃんの心を汲み取れず、そのまま彼女が死亡することでホンモノのゴルゴダの丘を登ることとなる。すでに直前で桜田花失踪事件が発生しており、恋から冷め始めた彼は今まで見えなかったラジオから流れる国際問題や学校で行われているデモに関心を向ける気配があるものの、それはキャンセルされる。セカイ系主人公のように、再開した桜田花とさっちゃんの祭壇の前で肉体関係を持とうとするのだ。ここでも、フランス映画ならセックスにもつれ込むわけだが、セックスレベルの肉体関係にはならない絶妙な感じが型破りであったりする。日本映画においてキラキラ青春が醒めたら社会へ向かう『輝ける青春』にはならないことを批判的に描いている点は慧眼に感じた。

一方で、本作には決定的に「ツッコミ」が足りない問題を孕んでいる。元々がお笑いコンビ「ジャルジャル」の福徳秀介の小説だけあって、コントのような掛け合いが特徴的となっているのだが、登場人物のよどみない語りに対する反応が希薄となってしまい、視覚的運動と言葉による運動がマッチしていないように思えた。

特にさっちゃんが5分近く恋情をぶつける場面は、途中で小西徹が会話を着ることで残酷さを引き立てられたはずである。棒立ちでずっと聞かされるところには違和感を抱いた。それはクライマックスの語りもしかりである。

大九地区の奇妙な世界観に困惑しっぱなしの作品であった。

P.S.ドビュッシー「月の光」の使い方がオリヴェイラ『アブラハム渓谷』と同じでウケた。
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