暗闇と光明が兼行する色相空間としての家──東京国際映画祭2024ユース部門。私の好きな映画ジャンルのひとつに「家族が幸福な崩壊を遂げる系」というのがあるんだけど、本作はそのジャンルをかすめている感じの不穏な家族もので面白かった。カレンとマルクスの夫婦は子どもたちと自然に囲まれた一軒家で暮らしており、マルクスの誕生日を祝うために血縁者が集まってくる。煙突をくぐってストーブに入り込んだ一羽の雀が室内に飛び出すシーンがタイトルにも使われているように、この家は扉の開かれた風通しの良い空間として存在している。しかし、母親のカレンの言動には小さな刺があり、子どもたちからも嫌われているようだ。家族の時間は不穏なサスペンスを匂わせながら進行していく。
人物が着用する服の色が目を引く。カレンが着用する緋色のシャツと青いデニムはじめ、劇中に登場するラタトゥイユを思わせる色とりどりの服が家の中を彩る。色の三原色を混ぜると黒に、光の三原色を混ぜると白になる。一家の行く末は暗闇か光明か。服が織りなすカラフルな色相空間としての家はそのどちらの未来も抱えているのだ。家のそばには湖沼があり、小島がひとつ浮かんでいる。登場人物のひとりが、その小島は昔は美しい風景でよく寝転びに行ったが今は鵜のすみかとなってしまったと口にする。おそらくフンで汚されてしまい足の踏み場もないのだろう。鵜の体色は黒く、フンは白い。ここでも黒と白が同時に近寄ってきている。また三原色が“混ざる”瞬間としては、衝撃的な洗濯機のシーンが用意されている。
カメラや音も手が込んでいたのだが、第一印象としてはやはり色の演出が目にとまった。色を駆使して家族が本質的に抱える奇形性を浮かび上がらせる見事な作品。正直、人物ごとに抱える闇の正確な背景は理解しきれなかったところもあったけど、そこはそれほど重要でもないのではとも思うのでよしとしよう。「動物三部作」のラストを飾る作品らしく、他2作も観てみたいと思った。「チュルヒャー」の語感好きだし。