CHEBUNBUN

メモワール・オブ・ア・スネイル(原題)のCHEBUNBUNのネタバレレビュー・内容・結末

3.5

このレビューはネタバレを含みます

【トラウマの暴走召喚】
第37回東京国際映画祭にて『メアリー&マックス』のアダム・エリオット約15年ぶりの長編『メモワール・オブ・ア・スネイル』が上映された。『メアリー&マックス』がティム・バートンの雰囲気を持ちながら心理的掘り下げに長けていたので期待して観たのだが、恐らく日本公開時にはR-15になるであろう強烈な性と死が渦巻くトラウマ映画であった。

ネタバレ箇所が多い作品なので、既に観た人が読むことをオススメする。障がいを抱えて生まれてたグレースは親の死により、双子の弟ギルバートと離れ離れになってしまうといった一見すると子ども映画で見かけるシンプルな題材となっている。

しかしながら、実際には理論的に不幸を積み上げながら、グレースの行動心理を肉付けしていくものとなっている。グレースは自己肯定感が低く、いじめっ子から守ってくれるギルバートとも離れ離れになっているので、より内向的になる。そんな彼女の周りではカタツムリやモルモット、ヒトが激しいセックスを行っており、彼女の孤独を助長させることとなる。彼女の前に歩み寄ってくるものは自己啓発本の化身のような存在ばかりであり、どこか胡散臭い。ピンキーおばさんだけが良心的な存在となる。

一方でギルバートは宗教が支配する農家で働かせられるのだが、お局のような存在による支配から欺瞞を感じ取るようになりやがて、同性愛に目覚めることによって対立する。

ギルバートのパートが薄めなものの、社会を前に傷つく者たちの心理を克明に描こうとしている。特にグレースに関しては、聖人ピンキーおばさんとの関係性ですら自己肯定感の低さを助長させてしまい、彼女のようなスリリングな人生を求め、クレプトマニアへと陥ってしまう。クレプトマニアについては今までよく行動心理が分かっていなかったのだが、ひとつの説として説得力のある描かれ方がされていた。

また、ようやく見つけた恋人、自分のすべてを受け入れてくれる恋人が実は肥満体フェチであり、グレースを太らせるために策略を張り巡らせていたことが露見する場面は、伏線の張り方があまりにも自然で、「あっ!」と悲鳴を挙げそうになった。この部分は完全にネタバレに該当する訳だが、トリガーアラートが必要な気もして、日本劇場公開時にどのように宣伝するのだろうと考えてしまう。

動物もヒトも全くもって無事ではなく、激しい性交、鬱と暴力が渦巻く強烈な一本にノックアウトされたのであった。
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