【傀儡からの卒業】
※本レビューはnote創作大賞2025提出記事の素描です。
【上映時間3時間以上】超長尺映画100本を代わりに観る《第0章:まえがき》▼
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砂漠をひたすらラクダで突き進む。やがて井戸を見つけ、水を汲んでいると、地平線の彼方から黒服の男が近づいてくる。蜃気楼のため、遠いのか近いのかわからないが確実にこちらへ向かってくる。彼は敵か味方か?ジッと眼差しを向ける中で、案内人タファスは敵と判断し撃ち抜こうとするが、逆に射殺されてしまう。ロレンスは足が凍り付き動けなくなる。目の前で死を突き付けられた際に人は動けなくなり、その中で絞り出すように言葉が発せられる様を時間かけて描く。
映画的なショットで紡がれる歴史超大作『アラビアのロレンス』は、英雄の中に流れる複雑な心理的変化。英雄の孤独を左から右へひたすら砂漠を移動する運動でもって表現している。アラブ世界の連帯を訴えかけトルコ軍に打ち勝とうとする。トーブに身を包んだロレンスは反乱軍を指揮する者としてフロントラインに立つわけだが、純白は血と複雑な政治によって染められていく。
彼は結局政治の駒でしかなく、アラブ世界に異物としている白人としてのロレンスは切り捨てられる運命にあったのだ。だからこそ、冒頭の死はある意味ハッピーエンドのように思える。歴史によって傀儡のように動かされてきたロレンスが、バイクで爽快に走る。ようやく得た自由の中での死だからだ。