yoshi

アラビアのロレンス/完全版のyoshiのネタバレレビュー・内容・結末

5.0

このレビューはネタバレを含みます

中年の私は現在のCGを頼りにする映画が苦手です。勿論、良いCGの使い方をした映画もあります。いかに監督の想像力を具現化する為、原作のイメージを再現する為とはいえ、CGに頼り切る映画は、役者の演技やスタッフの努力、また科学的根拠を無視しがちだからです。
しかしこの映画には、全く逆のことが言えます。

この映画にはCGが全く使われていません。当たり前ですが、CGが出来る以前の50年以上前の映画です。

にも関わらず、撮影された現実の砂漠の風景や戦闘シーンがあまりに壮大すぎて、現実に撮影された映画ではないのではないかと思ってしまうのです。
スタッフ・キャストの方々の物凄い熱意の結晶。そして努力が偲ばれます。

完成した映像全てが奇跡的であり、それは賞賛や評価などという域を遥かに超えるのです❗️

私はDVDや95年の完全版の上映を含めて10回くらい鑑賞しているにも関わらず、その都度、スケールの大きさに圧倒されてしまうのです。

ゆえにストーリーや役者の演技(登場人物の細かい心の動き)を未だに深く読み取ることが出来ていません。

やっと感想を書く決心がついたので、これから初見の方の為に、私の読み取ったストーリーを簡単に記します。
と、いっても大作ゆえ長くなるのですが…。

映画はロレンスのバイク事故と彼の葬儀から始まります。

イギリス軍の中尉、ロレンスは現地民ベドウィン族の知識に長けていることからアラビアに派遣されます。

無礼者、変わり者と上司に言われ、鼻つまみ者のロレンス。半ば厄介払いのアラビアへの左遷のように見えます。

ロレンスは、オスマン・トルコ帝国から独立するために闘争を指揮しているファイサル王子と会う。

オスマン・トルコはアラビアの利権を狙うイギリスと独立を目指すアラビアの共通の敵。
ファイサル王子から必要とされ、共に戦うことを誓います。

ベドウィン族酋長アリと協力し、ロレンスはラクダに乗って広大な砂漠を旅しながら、敵対するオスマン・トルコ軍との戦いに臨みます。

トルコ軍のアカバ砦攻略のためアラブ人を率いるロレンス。
当初はロレンスに懐疑的だったアラブ人の信頼を勝ち取り、真っ白なアラブ服を贈られる。

やがて、重要拠点のアカバ砦攻略という偉業を成し遂げます。
しかし、その後のロレンスは自らを過信し、トルコ軍の鉄道を爆破、少ない人数での戦闘など、無謀な行為を繰り返していきます。
彼が戦いに勝利すればするほど、アラビアの民からは英雄として扱われていきます。

はっきり言って、調子に乗ってしまうのです…。

やがてトルコ軍に捕らえられ、屈辱的な体験をするロレンス。

アラビア軍では英雄として祭り上げられているが、所詮は異邦人であり、大義もない。そして一人では何も出来ない自分の無力さを痛感する。

ちっぽけな人間である虚しさにイギリスに戻ろうとするが、軍は英雄であるロレンスを軍事作戦にまだ利用したいが為、アラビアに送り返す。

目的地へ向かう途中、トルコ軍の敗残兵を虐殺し、アラブ服は血にまみれ、アラビア人の心は彼から離れていく。

その虚しさはさらに募り、ダマスカスでのアラブ民族会議にウンザリしたロレンスはついにアラブを去ることになります。

自身のこれまでの行為が英国、そして王子の狡猾な戦略の一環でしかなかった事を知るロレンス。

英雄のままでいることもできず、アラビア人になることも出来ず、軍人として戦いの意味も失い、利用し尽くされた失意のまま、ついにアラビアを去る。

ストーリーを全部書くな💢と怒られてしまいそうですが、ご安心を。
必ず、そして誰でも、この映画の映像美に圧倒されますから❗️
(映像が美しすぎて、スケールが壮大すぎて、物語がどこまで行ったのか忘れてしまいますから、私の書いたのをガイドにして下されば…。)

砂漠に広がる無数のテントと人。
爆発してひっくり返る汽車。
広大な土地を行進する駱駝と馬の列。
幻想的で広大な砂漠の風景。

どこを取っても開いた口の塞がらないシーンの数々。
荘厳、壮麗、などなど形容詞では表しきれない、一切のごまかしのない「生の」映像。

よくこんな場所で、こんなスペクタクルな映像が撮れたものです。
もはや、これはドキュメンタリーかもしれない、などと思えてきます。
こんな映画を観てしまうとCGは、やはり小手先の技術だと思ってしまう。

今は進んだデジタル技術のせいで、どんなにスペクタクルな映像がスクリーンに映し出されても同じ感動を味わうことは難しい。

せいぜい観客同士が「あのCGすごかったね」と、フィクションであることを確認し合って安心するという不思議な楽しみ方をしていたりする。

それが実は本当に起こった事件を再現したものだったとしても…。

とても印象に残っているシーンがいくつかあります。

①アリの登場シーン。
まず、ロレンスの盟友となるアリの登場シーン。逃げ水の中から、はるか向こうの黒点の状態から、ゆっくりと時間をかけて近づいて登場。
砂漠の広大さを感じさせ、物語の重要人物であることを予感させる、思われぶりたっぷりなシーンです。
そして二人の出会いは最悪でした。
アラビア半島について間もないロレンスを案内していたベドウィンを、掟にしたがってアリが射殺するところから二人の関係はスタートします。

②ロレンスが過去を語るシーン。
当然ロレンスもアリも互いに不信感と嫌悪感を抱いていましたが、苦難を共に過ごす内にロレンスの生い立ちを聞いた彼は、英雄ロレンスの孤独を知ります。

貴族の非嫡出子として生まれたロレンスは、自分が望まれずに生まれた子で、自分の居場所を母国イギリスに見いだせなかった男でした。
しかし、アラビア半島で英雄的行為を成し遂げる事により、彼は自分という存在が生まれて初めて肯定され、認められたと感じます。

そしてアラビアの厳しい大地で育った男らしく優しいアリはそんなロレンスを放っておく事はできません。

ロレンスを励まし、眠る彼に毛布をかけるアリ。
彼の心情は台詞にこそなっていませんが、非常によくわかります。

アリから贈られたアラブの白い衣装はロレンスにとって人生の再生の証でもあり、
彼の心の象徴として映画で扱われる事になります。
そして、アリこそがロレンスに生きる実感を与えてくれた人物となったのです。

この2人の関係と俳優の素直な演技が、物語が展開して行く中で、重要なシーンとなり、唯一の救いとなっていきます。

③アカバ砦の襲撃
ロレンス率いる無数の駱駝と騎馬隊がアカバの街を攻略するという物語前半のクライマックス。このシーンをデヴィッド・リーン監督はほとんど1カットで表現しています。

カメラは近くの高台の丘に据えられ、数千とも思える駱駝と馬の軍勢が左手から凄まじい砂煙を立てて迫ってくる。
カメラはそれにつけてゆっくり右に移動して行くと、画面にアカバの街が見えてくる。
その街に突撃隊がそのまま駆け込んで行く様子が映される。
そのままカメラがさらに右に移動して行くと、海に向けられた地中海の青い海と大砲1機が見えてくる。

そしてカットは終わる。直後、すでにアカバの街はロレンスたちに占領されたことになっている。この1カットが素晴らしい。

私がつくづく感心するのは、ただカメラがパンして行き、画面上手から青い海が見えてきた瞬間に軍勢に街が砂嵐のように飲み込まれ、「あ、占領された」と観客に思わせてしまう表現そのものだ。


④そして本作のラストシーン。
失意の中、ジープでアラビアを去るロレンスはアラビア人の一団を見つけ、身を乗り出します。

その行為の意味は本作では述べられていませんが、彼を愛し、そして再生させたアリの姿を探しての行為だったと私は思います。
ですが、もちろんアリの姿はそこにはありませんでした。

アラビア人は英雄であるロレンスに気づくこともなく、ロレンスはやはり只の異邦人であることが強調されます。

波瀾万丈、栄枯盛衰、諸行無常。
一人の人間の数奇な人生が、雄大な自然の中で描かれます。
それはまるで、人間の人生など、なんとちっぽけなものかという事まで描いかれているかのよう。
自然の中で、人間が踊らされているような感覚にも陥るのです。

壮大なスケールで、しかも時間が長いので途中で観るのを止めると、ストーリーを忘れてしまい、登場人物に人間的共感と感情移入は難しいかと思います。
私自身もまだ完全に物語を理解出来ていません。

しかし、これだけは言えます。

この映画がこの世に存在すること自体が奇跡なのです❗️
その奇跡は賞賛と評価の域を遥かに超えます。

時間がある時に、大画面テレビで、映像美にゆっくりと酔いしれながら、途中で観るのを辞めず、一気に観ることをお勧めします。
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