TIFF。
イランの極寒の雪山で、遭難事件が発生。
行方不明だった登山隊の隊長の遺体が発見される。
関係者の聴取が行われるうちに、15年以上前に起こった、ある焼死事件との関連が浮かび上がってくる。
ファーストとラスト以外に客観カットが存在せず、この二つのカットを括弧として、全編が事件を捜査する警部のモノクロ主観映像で描かれる特異な作り。
提示される情報は、警部の目の前にあるもののみ。
観客は警部と一体化し、次々と現れる関係者の証言から、過去に何があったのか?15年前の事件は殺人なのか、自殺なのか?それが今回の遭難死に、どう関わって来るのか?を推理する。
何人もの関係者の名前が上がる序盤は、情報量の多さに少し戸惑うが、すぐに全体の構図は割と単純なのが分かってくる。
キーとなる人物は、死んだ隊長と、彼の友人だと名乗る男、そして15年前に死んだ少女の兄。
原題の「BORA」は「北風」の意味で、北風の吹く日は山での生存率が激減する。
イランでは、BORAの中では正しい者は生き残り悪しき者は死ぬ、と言われているらしい。
これが長編デビュー作のモハッマド・エスマイリ監督は、元々著名な写真家だそうで、モノクロ主観という難しい条件の中でも、見事に決め込まれた映像の美しさも見どころ。
警部の見ていること以外、見えないことが逆に想像力を広げてゆく。
「羅生門」的展開の果てに、徐々に近づいて来る真相にグイグイ引き込まれる、挑戦的な秀作サスペンスだ。