R

アナザー・カントリーのRのレビュー・感想・評価

アナザー・カントリー(1983年製作の映画)
4.5
あの不朽の名作モーリスに似せただけの普通の恋愛映画かと思って見始めたら、全然違う内容だった。信義と野心のお話だった。しかもこっちの方がモーリスより何年も古かった笑 ごめんなさい。見始めて一番最初に思ったのは、何ときれいな映像だろう、ということ。まばゆい陽光に照らされた、イギリスの全寮制パブリックスクールの伝統的建物の厳格な影に、絵画のように描き出される主人公たち。学内政治における権力の座を自らのものとし、レバレージを利かせようと、互いの動静をうかがっている。上流階級としてのプライドとエレガンスに混ざり合う、ハイエナのような貪欲と狡猾、そしていかにも人間らしい浅ましさ。これほど厳たる階級社会を長いあいだ存続させてきたイギリスは、どこか日本の上下社会に似た息苦しさを感じさせる。が、日本的な下品さがないぶん、だいぶマシなのでは。威圧には矜持があり、服従には官能がある。ゆえのホモセクシュアリティ。主人公ガイは、そんななか、多数の上級生に性の快楽を施した経験がある。ガイを演じるのはルパートエベレット。その彫刻のような象徴的顔立ちは、ぶっきらぼうと憂いを滲ませ、一言でいうと変な顔。ボクの好きな造形ではないが、美男と見る人も多いだろう。同性との性交をゲームのように遊んでいた彼は、別寮のとびきりの美少年ハーコートに、初めて恋をし、リアル同性愛に目覚める。このハーコートくん、めちゃめちゃキュートであどけないので、人によっては死んでしまう可能性があるでしょう。ボートの上でガイをきつく抱擁しながら、嬉しそうに横たわるハーコートの純粋な愛の情感は忘れ難い。しかし、将来の出世のため、寮の自治会幹部になることを目論むガイとしては、ホンマもんのゲイであることは許されない。隠匿の嗜みとして黙認されてはいるが、形式としては、禁断の淫行である。公にするわけにはいかない。一方、ガイの親友であるトミーは、スターリンを信奉するコミュニスト。イギリスのヒエラルキーを嫌悪し、共産思想を研究するはぐれ者。トミーを演じるのは、何と、若かりし日のコリンファース! めちゃめちゃイケメン!!! 声も喋り方も今とぜんぜん変わらない。そりゃスター俳優になるわ! ある日、性的スキャンダルのために次期幹部候補だった男子が退学となり、その座を狙う者どもが暗躍し始める。最終的には、トミーが幹部にならなければ、ガイも幹部になることができない、という状況になってしまう。トミーの信条は、トミーが学校のヒエラルキーに参入することを許さない。彼らは果たして、自らの望みを実現することができるのか……という流れ。というわけで、同性同士の愛自体をメインテーマとしているモーリスとは異なり、どちらかというと社会派色の強い作品。常に、不穏な緊張とノスタルジアがまつわっているのは、ダークなムードの映像や演技と、80sの不気味なホラー映画のような曲が流れているためだろう。そんな空気のなか、厳しい表情を湛える学生の皆さん。嫌なやつですらしっかり美男子、幼い子キュート、出てくる人たち、みんな英国的美を誇ってる! ショタ的感性をお持ちの方には強く強くオススメしたい。それにしても、クライマックスが、まさかのぺんぺん!!! ぺんぺんがピークだなんて!!! もちろん、彼の気持ちを考えるとものすごいものがある。だけど、僕は言いたい。たしかに、人間は、時代というものから離れて存在することはできない。が、それでもやはり、いまという瞬間は二度と戻ってこないし、いまの自分の人生は、一度きりしか楽しむことができない。それならば、何が何でも、自分の真実を追求したほうがいい。永遠という視座から見たら、一秒も一生もさほど変わりはないのだから。ぜひまた見たいので、ソフト化してほしいなー。
R

R