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リンゴ・キッドのTnTのネタバレレビュー・内容・結末

リンゴ・キッド(1966年製作の映画)
3.3

このレビューはネタバレを含みます

 マカロニ・ウエスタン、つまりそれは正統派なウエスタンではないのだというのを思い知らされる作品。イタリア語を皆が話しているのに舞台はメキシコで、時折女性が英語の歌を歌ったりして国際色豊か(今作品に限ったことではない)。マカロニ・ウエスタンとは映画界における無法地帯なのだ。主人公の強さも、もはやなんでもありと言わんばかり。金ピカの銃で撃ちまくり、という謳い文句にしてはその後の引きが弱いのだが。

 ただ、ユーモアのセンスはなかなかだと思った。オープニング始まって流れるテーマ曲が、主人公を事細かに説明し歌い上げる。あんまりに説明的で笑ってしまう笑。そんでもって最初の殺しも、いかにもな眼帯をつけた悪役が相手で笑う。そしてしかもあっさりと射殺。この西部劇に一番足りないのは銃撃戦におけるスリルだった。あとは脇役のおじさんが良い、西部劇に絶対に出てくるこの立ち位置。で、またちゃんと面白い役でよかった。また酒場での挑発する謎ドリンクぶっかけシーンも面白い、こういうセンスはイタリアならでは(?)だと思う。あとは水筒が爆弾だったり、ギターの中に銃仕込んでいたり、ここらへんのなんでもあり感は、映画の無法地帯ならではの許された描写で、可笑しかった。のちのタランティーノ映画のなんでもやっていいんだ感は、こういう西部劇の描写から引き継いでいたりするのだろう。B級系の映画はそうした自由奔放さは、しばし凝り固まっていく映画の枠を緩めてくれる。

 正義はどちらにあるか。主人公のリンゴと保安官ビルの敵に対する考え。一方は金のためならなんでもよくて、一方は法をめちゃくちゃ遵守する。どっちも極端すぎて、事態が深刻になる中もうちょっと臨機応変に動けよと思ってしまうほど頭が硬い、特に保安官。また、金もうけのために懸賞金がかかっていないチンピラを逃して大きくなって懸賞金がかかってから殺そうとするリンゴも、悪人を倒す以上に金に目がくらんでいる感。結果ラストで街は大爆発、住人の死人は出ないも、この二人の変な正義感がこの惨事を招いているので、めでたしで終わってしまうエンディングには疑いの念もある(リンゴに関しては愛人を殺されているのに・・・)。この頃流行りだした正義のためなら法を破るのも辞さない系のアウトローを描きたかったのだろうが、微妙でした。

 アフレコ(特に歌のシーン)はズレズレ、カメラの位置もかなり統一感なく、物語の主軸も揺らぐ、そんなマカロニのような柔さを噛みしめるようなウエスタン。主人公がせっかく見つけた金貨を置いて「俺が壊した街の再建に使えよ」という人情にはかっこよさと、「当然だろ」と突っ込みたくなる衝動が同居しているのだった。
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