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間違えられた男のRのレビュー・感想・評価

間違えられた男(1956年製作の映画)
4.4
ちょーひさびさに見てみました! 心から愛するヒッチコックの作品群の中、本作はかなり異色かも。ヒッチコック印のグラマーや強烈なエモーションがほとんどなく、ジリジリした低温の緊張感のなかでストーリーが進んでいく。あまりにらしさがないためか、冒頭、背後の光に長い影を引くダークな映像にヒッチコック本人が出てきて、これは実話を基にした映画であると宣言する。主人公はナイトクラブの楽団のベーシスト、愛する妻と二人の息子と幸せに暮らす平凡な男マニー。ある日、妻の親不知の手術のため、お金を融資してもらおうと、加入している保険会社を訪れる。彼が窓口に立つと、俄然、社員たちの間に緊張が走り、様子がおかしくなりはじめる。突如として画面全体にみなぎる異様なムード。この男は先日そこで起こった強盗の犯人に間違いない、と確信する彼女らは、早速警察に通報。まさか警察署に連行されるだなんて夢にも思ってなかったマニーが、あれよあれよとはまり込んでいく冤罪の悪夢を緻密な演出で描いた非常にダークなドラマ。全編にカフカ的ニュアンスが薫ってて、マニーが留置所に拘束されるシーンはそこらじゅう檻のイメージに覆われてて閉塞感すごいし、淡々と入所の手続きを踏んでいく呆然状態のマニーの主観ショットによって狭く縮こまった世界観が巧みに表されてて、見てると息が詰まってくる。さらに、深く愛し合ってる妻のローズが精神的に参っていく様子がこれまた精巧に描かれてて、弁護士のとこに2回話に行くときの心理状態の変化を弁護士の視線から見せていく感じとか、僕の愛するヒッチコックらしさって感じで、重苦しいシーンなのに喜悦を感じずにはいられない。果たして、マニーは無実の罪を晴らすことができるのか⁇ そして、ローズとふたたびハッピートゥゲザーになれるのか?? あえてちょっとした弱点を挙げるとすれば、後半の裁判のシーン。気力を失ってぼんやりしてるマニーの主観から演出されてるため、緊張感も迫力もなく、こっちも少々ぼんやりしてしまう。けど、その後のキリスト画に祈りを捧げる有名なシーンはほんと素晴らしい!!! 鳥肌たった!!! 鳥肌といえば、鏡台の前での奥さんのブラシのシーンも! こういう目覚ましいシャープな瞬間が意外なところで不意に現れるの大好き、これもヒッチコックならではの瞬間すね。ラストのあっけない締め方は、リアルな人生の一片って感じで、ボクは結構好きです。主演がいかにも善良なヘンリーフォンダであること、誰もがコイツが犯人だって確信してるとこが、実に怖い、悪気のない冤罪ほど不条理なものはない。1956年のアメリカ作品てことは、生活が豊かになりつつ、一方で冷戦や赤狩りなど、不安と疑惑の暗雲が立ち込めていた時代。そういう世相もひょっとしたら反映してるのかな?と思った。マニーがイタリア移民ってのもあるのかな? 奥さん演じるヴェラマイルズの危うさもとてもスリリング! ヒッチコック傑作群の中では、地味で暗くて評価もまちまちっぽいけど、個人的にはかなり好きな方の一作やと思われます。ヒッチコックまたいろいろ見たくなってきたわー。
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