ユウ

8番出口のユウのレビュー・感想・評価

8番出口(2025年製作の映画)
3.8
 『百花』で認知症のおばあちゃんがスーパーで迷ってしまう一連のシーンが見事だった川村元気監督の新作はインディーズゲーム「8番出口」の映画化だった。このタイミングでゲームの方も挑戦。地下鉄の出口までの長い渡り道を行ったり来たりする脱出系ホラーゲーム。初見殺し要素が多く理不尽な感じが楽しい。
 映画では派遣社員の二宮和也が迷い込む。とりあえずの服装に黒リュック、飲みかけのペットボトル(飲料マニア的に推察をするとあれはAmazonオリジナルの宅配で届く水)などカッコ良すぎなくてちょうど良いバランス。ニノと電車といえば『GANTZ』を思い出してしまうが彼もすっかり40代で既婚者だ。小松菜奈演じる元カノ(?)から人生の大事な選択を迫られる。この辺はかなりぼやかされていて最後までよくわからない。作家“川村元気”はよくこれをやる。『億男』でも『世界から猫が消えたなら』でもそうなのだが起こった現象とかそれを取り巻く人間関係とかは物語を前に進める装置と化しているのはやはりわたしにはミスマッチ。『億男』のアレを仕掛ける友人の気持ちが一ミリも理解できない。だが、それでいいのだとも思う。
 明確な「物語」がないのは悪いことばかりではない。自分の人生にとことん当てはめて考えて汲み取ることができるだけの余白が残されていると考えられるから。映画の『億男』とかでそれをやられると良くないのだが、「8番出口」という世にも奇妙な体験がメインなので今回は凄くいいバランスだった。『億男』とかはあくまで原作者という立ち位置なので『百花』と『8番出口』の出来がいいのは監督としての川村元気に手腕があるということ。今後も期待したい気鋭のベテラン作家だ。
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