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岸辺露伴は動かない 懺悔室のおりょうSNKのネタバレレビュー・内容・結末

5.0

このレビューはネタバレを含みます

空高くポップコーンを投げて口でキャッチする──たったそれだけの行為を、ここまで張り詰めたサスペンスに昇華できるのは荒木飛呂彦だけだろう。その一連のシーンを、たっぷりと尺を取って、まるで運命の綱渡りのように描ききった映像には、もはや並の映画一本を軽々と超える満足感がある。
鳩の名演はジョン・ウーの作品か、伝説の『映画かよ。』を思い出させる見事さ。そして何より、あの希望と絶望が一瞬ごとにせめぎ合う名場面で、主役さえ喰う存在感を放った大東駿介の表現力――圧巻という他にない。

井浦新も玉城ティナも戸次重幸も、もはや完全に荒木飛呂彦の世界に肉体ごと溶け込み、生身の人間であることを忘れるほどの存在感を放っていた。誰一人として浮いていない。いや、むしろ、あの世界にしか存在できないような不穏さと美しさをまとっている。
そんな異形の世界の中で、唯一無二の光を放ち続けるのが高橋一生演じる岸辺露伴だ。荒木キャラ特有の奇怪さを体現しながらも、どこか人間臭さや愛嬌を滲ませるバランス感覚。原作とは似ていない──けれど、誰よりも露伴そのものであり続けるその演技は、すでに変人漫画家・岸辺露伴の新たな正解になっている。
シリーズを通して観る者の心をやさしく解きほぐしてくれる飯豊まりえ演じる泉京香も健在。ほっこり枠として、今回も抜群の存在感。緊張と不安を煽る物語の中で、彼女の存在がどれほど貴重か。

すべてが前作を凌駕する。構成の妙、映像美、役者の熱量、そしてなにより、荒木飛呂彦の世界観への愛とリスペクト。そのすべてが、一本の作品に結晶している。『懺悔室』というたった一話で、ここまでのスケールと緻密さを実現してしまうとは。まさに“動かない”どころか、観る者の感情を強烈に動かす怪作だった。

『岸部露伴は動かない 懺悔室』
2025年 日本110分
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