シズヲ

暴力脱獄のシズヲのレビュー・感想・評価

暴力脱獄(1967年製作の映画)
4.4
刑務所による支配を拒み、孤高を貫いた男の物語。ポール・ニューマン演じる主人公ルークの魅力がとにかく素晴らしい。権力に抗ってクールに笑い続ける姿は本当にかっこいいし、同時に過去の従軍経験へのスタンスやケチな犯罪歴が彼の虚無を強く印象付けてくる。

ルークがキリストと重ねられているのは薄々感じられたけど、そういったモチーフの果てに『神の不在』を持ち出してきたのが余りにも反抗的。その上で個人の尊厳、規範への抵抗を描いた本作からはアメリカン・ニューシネマの時代の幕開けを感じずにいられない。

権威に媚びないルークの影響を受け、彼に希望を見出だしていく囚人達がやはり印象深い。ジョージ・ケネディ演じる顔役の囚人なんかは実に味があって魅力的で、彼らのあっけらかんとした空気感が本作のムードを作り出していて好き。囚人達のルークへの想いがそのまま展開に対する緊張や期待へと繋がるのは唸らされるし、彼らの希望を受けるルークこそが誰よりも空虚を抱えているという構図も面白い。

ルークの生き様の到達点であるラストの余韻も素晴らしい。決して派手な演出は無くとも、静かな感動が確かに染みてくるのが堪らない。ルークはいつだって笑っていたのだ。しかし終盤の神への問いかけにも繋がる「クール・ハンド・ルーク」という秀逸な原題に対して「暴力脱獄」って邦題はいい加減すぎてちと謎だ。
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