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若者たちのsayuriasamaのレビュー・感想・評価

若者たち(1967年製作の映画)
4.0
高度経済成長期の痛みと苦しみと兄弟愛

超マイクロ名画座ラピュタ阿佐ヶ谷で開催中の『戦後独立プロ映画のあゆみ-力強く』の中からの一本。知りあいの邦画好きのオジサマが昔ハマッたと熱弁をふるうので試しに観にいきました。

「独立プロ」、要するに映画大手五社以外が製作した映画が揃っている今回の企画。本作も俳優座が製作しているので座員、養成所出身者が出演。皆さんお若くて顔と名前が一致するか実は不安でしたがなんとかわかりました...

ストーリー:両親を亡くし男4人、女1人で生活する佐藤家。太郎は建築現場の叩き上げ、次郎はトラック運転手として必死に働き、大学生の三郎、予備校生の末吉の学費を援助している。一家の主婦を引き受けているのはオリエ。黙々と三食の飯炊きに家事をこなしている。
ある日、些細なけんかからオリエは家を飛び出し、靴工場で働き始める。その変化から5兄弟のストーリーが始まる.. .

佐藤家のキャストは
太郎:田中邦衛
次郎:橋本功
オリエ:佐藤オリエ(ご自身のお名前が役名になったパターン)
三郎:山本圭
末吉:松山省二
とキャラ濃いなあ。特に上の二人は自分達が強くなければ!そして弟たちには学歴をつけさせなければ、との使命感に燃えに燃えています。
逆に下の2人は学問を修めながらもまた違う道を模索しているようで、いわばブレーキ役。(とくに三郎さんこと山本圭。松山省二はいかにも末っ子キャラの予備校生ですからちょっと違うけど..)
オリエはオリエで、工場で働き始めたことで世界が広がり、戸坂という男と出会います。(ちなみに演ずるは石立鉄男。髪型はもじゃってないです..)
佐藤家のキャストは後年の作品で活躍されたキャラを思わせるように、それぞれのもち味が十分に発揮されていました。ただ、田中邦衛の割烹着姿はおかしかったなあ(笑)

ただ、みんな、ツラい展開なんですよ。
太郎はお見合い話が来たものの、相手の女性からの返事は芳しくなかったり。(お見合い相手は小川真由美)
そのせいで学歴コンプレックスに悩まされる苦悩。その長男からの期待がかけられるものの、結果を出しきれない末吉。
三郎も大学で経済学を学ぶものの、不景気な世の中に理論は役に立ちそうになく、友達も学校を去るし...
次郎も必死に働いていて、普段は短気で荒っぽいのですが、オリエの幼馴染が不本意な生活を強いられていることに気がつくと、彼女にまっすぐな愛情を見せたり。
オリエが仲良くなった足が不自由な戸坂という男、実は原爆孤児で、「ピカの子」と蔑まれおり、周りからは距離をおかれている立場であったり。太郎は戸坂との交際に大反対も三郎はもっと理性的に考えなければ、と諌めたり。

各々が幸せを掴むために生きる姿は時代を越えて共感できるはず...ですが、現代は5人兄弟は珍しいし、こんなに熱く生きるキャラはなじまないかもしれませんねえ。日本も開発しつくされ、いよいよ現状維持を目指すとなると、佐藤家の面々のように「いろいろあるけど、朝、日が昇れば希望があるさ...」とはなかなか言い切れないところがツラいなあ。

兄弟喧嘩、すごーく熱かったなあ。卓袱台ひっくり返したり、料理が桐のタンスに飛び散ったり...畳にこぼれたおかずを拾ったり...このあたりはさすが舞台俳優陣ですからややオーバー気味の熱量でした。映画というかは舞台のようなテンポだったし。

あと2作続編があるので、佐藤家の行末を見守ってきます。
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