亘

グッドモーニング、ベトナムの亘のレビュー・感想・評価

4.0
【戦場に笑顔を、兵士に真実を】
Goooood morning, Vietnam!! 1965年サイゴン。米兵向けラジオ局に新DJクロンナウアが赴任した。彼の番組は型破りで刺激的でユーモアたっぷり。彼は人気DJとして活動しながらベトナムの現実に向き合う。

破天荒なハイテンションDJクロンナウアがサイゴンで人々と触れ合い兵士に笑いを届けた数か月間を描いた作品。戦争映画とは思えない底抜けの明るさとロビン・ウィリアムズのマシンガントークが魅力的な作品。まさにこの役柄は彼しかできないだろう。そしてそんな明るさとは対照的に戦場の現実・悲しさも織り交ぜる。戦争映画の中でも見やすい作品だと思う。

ベトナム戦争半ば米軍は北ベトナムへの侵攻を拡大しつつあったが同時に兵士は疲弊しつつあった。米軍としてはつらい時期を乗り越えるために送り込んだのがクロンナウアだった。彼は空軍として駐留していたクレタ島でDJをしていたが、その面白さに目を付けた将軍がサイゴンにつれてきたのだ。初日から彼はエンジン全開でユーモアも皮肉も風刺も下ネタも満載のマシンガントークを繰り出す。それにそれまでポルカしか流さなかった音楽コーナーにロックを流す。やりたい放題のクロンナウアに保守的な上司たちは眉をひそめ妨害しようとたくらむが、彼にとってはお構いなし。一躍彼はベトナムの米兵たちのスターになるのだ。

彼のサイゴン駐在に変化を加えたのがツアン・トリンの兄妹をはじめとしたベトナム人との交流。はじめはトリンへのよこしまな思いから英会話教室の教師になるが、持ち前のトーク力で生徒たちを魅了し仲良くなる。老若男女問わず彼のトークに爆笑する姿は、戦争中であることを全く感じさせないし、支配側・被支配側という力関係も見えない。まさに彼がフラットに接し人を楽しませようとしているからだろう。そしてクロンナウアはトリンとのデートもする。

事態が変わり始めるのは、行きつけの店でのテロ以降。テロ現場にいたクロンナウアがテロの事実を伝えようとするも、テロは検閲により台本から削られる。それでも彼は真実を伝えるために「非公式にテロが起こり非公式な死傷者が出た」と皮肉交じりに思いを伝える。これがきっかけで彼は憎まれてた上司から停職処分を受けるが、彼の実直さ・他人を想う思いの強さが現れたシーンだった。

停職処分中かれはツアン・トリンの故郷を訪れるなどベトナムになじむ。伝統的な暮らしなどそこで彼が見た姿こそベトナムの現実だったのだ。彼は英語が通じないベトナム人相手でも楽しませようとするし文化を受け入れようとする。これはまさに偏見を持たないクロンナウアだからこそだろう。一方で真実を伝えられないDJへの興味を失う。それでもトラックに乗った兵士たちを即興マシンガントークで笑わせて再び気力を取り戻す。彼にとってのモチベーションは、きっと人々の笑顔だったのだろう。

戦局が激化すると一般人も犠牲になり始める。これは住民がゲリラ化して攻撃するために、一般住民でも見境なく米兵が攻撃し始めたからだろう。名曲"What a wonderful world"に合わせて全くワンダフルではない惨状を見せられるシーンは、この作品中最もメッセージ性の強いシーンの1つ。それから続く戦闘地域のシーンやツアンの正体が明らかになるシーンは戦場の現実をまざまざと見せつけられ戦争が人を分断する切なさを感じる。

それでもクロンナウアは帰国直前にソフトボールに興じる姿は人々の分断を乗り越える希望を持たせてくれる。戦局は悪化していてもソフトボールをしている間は米兵もベトナム人もみんな笑顔。これこそクロンナウアが目指していたものだろう。そしてラジオ最終回は相変わらずハイテンション。悲しさを見せない気丈さ・明るさはさすがでうれしいけど、ルールに縛られない彼が"大人の事情"で帰らなければならないというのは無力さや虚しさを感じてしまう。


印象に残ったシーン:クロンナウアがラジオでマシンガントークを繰り広げるシーン。What a wonderful worldが流れるシーン。ガーリックが最終回を流すシーン。
印象に残ったセリフ:Goooood morning, Vietnam!! 

余談
・エイドリアン・クロンナウアは実在の人物で、1965-1966にサイゴンに駐在しました。2018年7月に亡くなったそうです。
亘