Azuという名のブシェミ夫人

薬指の標本のAzuという名のブシェミ夫人のレビュー・感想・評価

薬指の標本(2004年製作の映画)
4.6
『博士の愛した数式』が有名でしょうか。
日本の作家・小川洋子さんの同名小説が原作。
私は小川洋子さんの小説が好きでよく読んでいたので、更にそれが大好きなフランス映画になっているなんて最高だなと。
だけれど、ちっとも見つからなくてすっかり忘れてしまっていましたところ、今回ようやく出会う事ができました。

もうタイトルが良いじゃないですか。
薬指の標本・・・うん、良い。

結論から言うと、物凄く私好みの作品でした。
小川洋子さんの原作の世界観をしっかり美しく映像化しながらも、ちゃんとフランス映画らしくなっており、再現とアレンジのバランスが絶妙。
部屋を暗くしてヘッドフォンで視聴して、この耽美な世界にどっぷり浸りました。
静寂の部屋、注がれる視線、衣擦れ、足音、触れる身体。
あぁーこういう美しい変態、フェティシズムってやっぱり好きだ。


物語の主人公イリスは飲料を製造する工場で働いていた際、薬指の先を事故で失います。
これをキッカケとして港町へ引っ越し、職を探していたところ、導かれるように標本技術師の元を訪れる。
ミステリアスな技術師の男性が標本にしているのは物質だけれど、それは依頼主たちが捨てきれなかった“思い出”でもあるのです。
私が彼に標本を依頼するとしたら一体何を・・・そんなことを妄想したり。


エロスを“匂わせる”ようなシーンが印象的で、これは女性監督ならではのものかもしれません。
美しきオルガ・キュリレンコの仕草や肢体はその存在だけでも官能的でしたが、それを衣装や視点・視線によってより高めた撮り方がされていた。
標本技術師がイリスに赤い靴を履かせる、これだけのシーンがドキドキさせる。
あっ、なのでね…ちょっとあの濡れ場だけはフランス過ぎてぎょっとしましたけども。笑
見せない方が官能的なのにね。

ホテルの部屋を夜間に働く船員と共有することで生まれる、擦れ違いの恋心のような生活も素敵。
原作には無いエピソードだけど良かった。
船員が標本技術師とは真逆のワイルド系イケメンで、こっちも楽しいです。←
あの関係性はなんかイイなぁ。

愛し愛されるというよりは、心を囚われる。
自分の欲求に素直になった時、それを幸福と呼んでいいのか。
どうなんでしょうね・・・ふふふ。