こたつむり

ぼくは怖くないのこたつむりのレビュー・感想・評価

ぼくは怖くない(2003年製作の映画)
4.0
♪ Will you please tell me the way to the sky
  ああ 空は何も変わらず そこにいた

「いつでも君の傍にいる」
と寄り添ってくれた“あの物語”は少年たちが歩き出す瞬間を捉えた作品でした。その姿勢は間違いなく“能動”。彼らの意思が物語を支配したのです。

しかし、それは恵まれた人の物語。
多くの子供たちは大人に支配され、自ら行動する前に“目覚めさせられて”しまうのです。それを不幸と呼ぶのか、効率が良いと呼ぶのかは人それぞれですが、そこに彼らの意思はありません。

そんな瞬間を描いた本作は果てしなく残酷。
そして、とことんまで優しいのです。

イタリアのある地方。
草原が広がり、空も落ちてきそうなくらいに大きくて。牧歌的な世界に生きる子供たちは、いつでも眩しい…そんな世界観。でも、根底に漂うのは貧困の痛み。

だから、彼らには知識がなく、それが純真さを支えています。それは大人も同じ。リスクが大きいことに疑問を抱かず、ズブズブと沼に嵌っていく様が痛々しいのです。しかも、心の奥では否定しているのに。

特に印象的だったのが母親の一言でした。
「大きくなったら、この村を出てね」

おう。なんとも残酷。
そして優しいのでしょうか。
この一言に本作の全てが詰まっていると言っても過言ではありません。ある意味“ネタバレ”かも。

ゆえに物語がどんなものなのか。
そこには言及しません。邦題にもあるように、彼は元から怖くないのか、それとも一欠けらの勇気を振り絞ったのか。それすらも書きません。大切なのは目覚めた先の選択ですから。

まあ、そんなわけで。
子供たちの可愛らしさで目を楽しませながら、真理に胸を痛める物語。ちょっと“あざとさ”が強いので鼻に付くかもしれませんが(主人公のブリーフ姿が多いのは…ねえ)それも舞台装置のひとつ。愛でるように、慈しむように。ふわっと包み込むことが、楽しむ秘訣です。

どうして、僕らは大人になるんだろう。
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