おばあちゃんに会ってみたかった
両親ともそれぞれの母を早くに亡くしているので、私にはおばあちゃんがいたことがない。
お父さん、お母さん、と呼ぶけれど、父、母、と書く。
けれども、会えなかったその2人を何となく祖母と書きたくない。
おばあちゃんがいい。
何でだろうな、と思う。
中学に行かないと言ったまいを、母は森で暮らすまいのおばあちゃんの家へ連れていく。
「魔女なのよ」
そう言うおばあちゃんと暮らす、まいの日々が始まる。
木漏れ日に包まれた。
庭のレンガのコンロでグツグツと煮込む野いちごのジャム、ラベンダーの上に干す真っ白なシーツ、葉っぱの浮かんだハーブティー、まいを包む柔らかい陽射しとおばあちゃんの声。
自分が落ち込んでいるとき、傷ついているとき、ただ近くにいてくれる人の優しい強さ。
どんな相手にも丁寧な言葉で話しかける、そのたおやかさ。
日々の何気ないことを大切にする贅沢さ。
自分で決めること
決めたことをやり遂げること
変化を楽しむこと
おばあちゃんがまいに伝えたこと
「絶対先生にバレると思う」
母が笑っていた、祖父の渾身作である"夏休みの工作"の鉛筆立てを仕上げる、シワシワでサラサラの手を思い出した。
おじいちゃんと呼ぶのしか聞いたことがなかった母の
「さっきお父さんがね...」
という中学2年のあの日の電話。
「お前なら大丈夫、お父さんもすぐ追いかけるから」
父に乗せられた一人ぼっちの飛行機の中で、そうかおじいちゃんはお母さんのお父さんなのか、と思った。
夏休み、祖父の家で母にがっつり叱られた後
「お疲れ様でした」
私と母それぞれに微笑んだ祖父の、心を軽くしたあの言葉は、まいのおばあちゃんがまいにかけた"おまじない"と同じだったのかもしれない。
おじいちゃん
おばあちゃん
呟いてみた。
私の心に風が吹いた。