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嵐を呼ぶドラゴンのJAmmyWAngのレビュー・感想・評価

嵐を呼ぶドラゴン(1972年製作の映画)
4.5
脅しも叫びも呟きも、核心を突いた真っ直ぐな「言葉」が時に残酷に、時に切なく空気を切り裂いて瞬間的に心に到達しながらも、チャン・チェ監督による悲壮な情念の雰囲気が再び世界を飲み込んでいくという鬱々とした遣る瀬無さ。

しかしその解放としての虎形拳と鶴形拳との連環撃を繋ぎ合わせるものもまた「掛け声」なのであるという、「声」や「言葉」の映画としての側面をも有する傑作であると私は思う次第でございます。

ラカン風に言えば、人間とは語る存在であるけれど、言語は現実を語り尽くせない。しかし我々には言語にすがるしか方法がないという事実の一方で、本来は「映像」によって内容を語ってきた「映画」という表現形式において、なぜ改めて台詞という音声言語が必要なのだろうか。

それは心情や状況をこれ見よがしに説明する為ではなくて、映像を超えたイメージの内容を心に叩きつける為であり、現実界のように語り尽くせぬ何かを限り無く語ろうとする終わりなき試みの為ではないだろうかと、今作を観て私はそう思ったのであります。

この映画においては、「言葉」も「映像」もそのどちらもが「意味するもの(=シニフィアン)」として純粋に等価の役割を担い、結果としてまどろむような情念と、ほとばしるカンフーの煌めきが心象に想起された次第でありますが、それにとどまらない何か語り尽くせぬものを可能な限り描き出すために、映像としてカンフーを使う、表情を使う、拳が交わる音を使う、そして言葉としての台詞を使うという具合にシニフィアンの総力戦といった様相を感じたワケでございます。

そしてその決して達成される事がない奮闘の累積の果てに、言葉とカンフーが渾然一体となった虎形拳と鶴形拳との連携が炸裂するワケですから、感極まるとはこの事で私はもう泣きながら軽く幽体離脱をしておりました。

と、ここまで書いておいて、この映画には思いっ切り説明でしかない台詞やナレーションも平然と挿入されておりまして、おい何か言ってる事と違うじゃねーかと思われるかもしれませんが、あえて言おう!「それがイイ」と!!!!!
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