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ミッドナイト・ランのyoshiのネタバレレビュー・内容・結末

ミッドナイト・ラン(1988年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

若い頃、公開当時に劇場で鑑賞した作品だが、派手なアクション映画が多かった当時は、あまり面白いとは思わなかった。
しかし、自分が主役2人の年齢に近くなるにつれ、定期的に見るようになった。
(今では当時の2人より、私が年上になってしまったが…)

なぜ、歳を取るにつれて、好きになっていったか?最近何となく分かってきた。

いい歳したオジさんの2人のドタバタ珍道中が何とも微笑ましい。
ロードムービー、バディムービーの教科書のような作品だ。
アメリカ製アクション映画だが、珍しいことに誰も死なない(笑)。

鑑賞後は、幸せな気分になれる。
登場人物が全員何だかんだ「良い人」であり、「世の中、捨てたモンじゃないな」と性善説を信じずにはいられなくなるからだ。

性善説とは、人間の本性は基本的に善であるとする倫理感のこと。
もしかしたら、意図的にソコを描こうとしていたのではないか?とさえ思える。

主人公ジャック・ウォルシュ(ロバート・デニーロ)は元警官。
シカゴのマフィア、ジミー・セラノからの買収を断ったことが原因で、警察をクビになり、離婚もして、ロスの保釈金融(保釈金を立て替える会社)の取立人(劇中では賞金稼ぎ)に落ちぶれている。

会社から彼に、そのセラノの資産1,500万ドルを勝手に慈善団体に寄附してしまった会計士デューク(チャールズ・グローディン)の身柄を5日後の裁判までに確保せよとの依頼が入る。

さっそくウォルシュはニューヨークに飛び、アッサリとデュークを捕える。
飛行機で帰ろうとするが、デュークが飛行機恐怖症のため、乗車拒否。
そこからロスまでの4,000kmにわたる道のりを列車、バス、徒歩で大陸横断の旅をするハメになる。

手錠をかけられた真面目な会計士デュークと、粗野な元警官ジャック。

マフィア、FBI、もう一人の取立人という三者に追われて、トラブルの連続。
乗り越える度、吊り橋効果のように、相反する性格の2人の間に絆が生まれてくる。
(時折り、騙し合う所が笑える。)

まずデニーロ演じるジャック・ウォルシュのキャラクターがいい。
粗野で皮肉屋な言動をするが、心の奥底には正義感とやさしさが感じられる。

まさに「粗にして野だが卑ではない」という言葉が似合う。
これは元国鉄(現JR)総裁の石田禮助氏の言葉。
外見や言葉遣いが洗練されず粗野に見えるとしても、考え方に筋が通っていて、卑なことは決してしない人のこと。

この作品までは、マフィアやボクサーなど特異な人物ばかりを演じてきたデニーロが、何とも庶民的で親近感のわくキャラクターを演じる。

そして、物凄く楽しそうに演じている。
この役で芸の幅とオファーされる役の幅が広がったと思うのは私だけ?
後年、「最も好きな作品」と語ったのも頷ける。

一方のデュークはマフィアの会計士でありながら、麻薬で稼いだお金で悪事を重ねるセラノが許せず、横領したお金の殆どを慈善活動に寄付。
結果、命を狙われるハメに。

ジャックは刑事時代、マフィアに賄賂で味方につくことを拒否。
その結果ハメられて、自宅から麻薬が見つかり、刑事の職を失い、家族も失うことになった。

そのマフィアこそデュークを追いやったセラノ。
互いにセラノに恨みを持ち、それでも尚自分の行動に後悔などしないという強い正義心を持っているのが2人の共通点。

ジャックは危険な商売から、真っ当に稼いだ金で足を洗うために護送する。
デュークは、逃げて助かるために、ずる賢しこくジャックを騙して逃げようとする。

お互いの境遇を知るエピソードが、徐々にあかされていくので、2人の好感度が上がっていく。

脇役も良い。
全員、マヌケだ。(褒めている)

情報が筒抜けの保釈金融の社長。
(電話はFBIに盗聴されていることに気付かず、部下は小遣い稼ぎにマフィアに情報を流す。その度に「ドーナツ買ってくる」といそいそと出かけるのが笑える。)

野卑でドジなもう一人の賞金稼ぎ。
(ジャックが「危ない!」と叫び、注意を逸らすたび、お約束のように殴られて気絶。)

偉そうだが、失敗ばかりするFBI。
(身分証をジャックに盗まれ、道中ことごとく自分の名前を使われる捜査官。大袈裟な人数で先回りするたびに、途中でコースを変えらえて待ちぼうけ。)

彼らを追うマフィアの手下2人組。
(カッコつけているが、情報が入らないと動かない。適当にサボっているし、旅の途中の買い物を楽しんでいたりする)

何だかんだとまるっきり冷酷にはなれない、お人好しばかりだ。

しかも全員いい歳したオジさん。
男は女に比べて、精神年齢が幼い。…とよく言うが、そんなガキのまま大人になったような庶民的なオジさんばかりが出てくる。

そんな庶民的なエピソードの最たるモノが、中盤でのジャックの元妻との再会シーン。
さすがに追い詰められ、道中無一文になった2人。
頼れる者もなく、仕方なくジャックの元奥さんの所へ金の無心に行く。

9年ぶりの再会なのに、金を貸してくれとは、何とも情け無い。

自分の正義を貫いて、刑事をクビになっただけに、元奥さんに会っても、かつての自分を曲げないジャック。
亭主関白な夫であったことが垣間見え、すぐにケンカ。
しかも妻の今の夫はジャックの代わりにマフィアの横領に応じた元同僚だと言う。
なんともミジメなジャック。

別れ際に実の娘が駆け寄り、自分が貯めたお金を父ジャックに渡そうとする。
しかし、ジャックはそのお金は決して受け取らない。

このシーンは何度見ても泣けてくる。
自分のルールを貫く漢気。不器用な男の痩せ我慢。
ハードボイルドというよりは「男はつらいよ」である。

後半、ついにデュークは他の賞金稼ぎに捕らわれ、さらにその賞金稼ぎは金目当てにマフィアにデュークを引き渡そうとする。

ジャックはFBIに拘束されてしまい、2人の旅も最悪の結果に終わるのかと思ったが、ジャックが起死回生のアイデアをヒラメく。

本当は実在しない裏帳簿のデータと引き換えにデュークを返せとマフィアに連絡。
それを受け取れば、デュークよりもはるかに大物のセラノを逮捕出来る。

そのアイデアにFBIも乗っかる。
LA空港に、ジャックとFBI、デュークとマフィア、ついでにライバルの賞金稼ぎまで全員が終結。

作戦は何とか成功し、セラノは逮捕。
ジャックは金融会社に電話し、デュークを連れ戻す仕事を、まちがいなく果たしたことを証明する。

しかし、なんとジャックはデュークを解放する。
賞金を諦め、デュークを自由の身にしようと言うのだ。
このまま刑務所に戻せば、再びデュークの命が危険が及ぶためだ。

別れ際、デュークはいくらほどの賞金を見込んでいたかとジャックに聞く。
「じゃあな」と背を向けたジャックに「ちょっと待て」とよびとめるデューク。

胴巻きのようなものを腹のあたりからずるずると引き出す。
その中には1000ドルの札束がぎっしり。

デュークの逃走資金であり、金融会社に返すはずの保釈金だ。「持っていけよ。おれにはもう用がなくなった。30万ドルある」

これだけの金をずっと持っていて、最後まで俺を騙しやがったな。

そんな顔のジャックが改めて言う別れのセリフが粋である。
「来世で会おう」See You next life。

劇中で一度登場した、ジャックからデュークが逃げようとした時の捨てゼリフだが、このラストでの意味は味わい深い。

自分たちの立場はあまりに違うが、来世なら多分やり直せるだろう。
もう会うこともないだろうが、また偶然出会ったとしても「友人同士でいよう」というような2人の間に生まれた熱い友情を秘めた言葉に聞こえる。
とても深みのあるセリフだ。


歳を取るにつれて、なぜこの作品が好きになっていったか?

旅に登場する乾燥したアメリカの大地。
カントリーやブルース調の乾いたギターサウンドの音楽。
この映画は乾燥した空気の秋の季節のイメージがある。
だから、秋に見たくなるのだろう。

この映画は基本はコメディである。
私の人生も、客観的に見れば喜劇なのだろう。
自分のルールを曲げず、プライドを捨てきれない、滑稽で可愛いオジさん達。

私も彼らのように人生の秋に差し掛かっている。
彼らのように味わい深い人間でありたいと思う。
私は秋が似合う映画だと思っている。
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