リッキー

幸せへのキセキのリッキーのレビュー・感想・評価

幸せへのキセキ(2011年製作の映画)
3.0
1015本目。190528
本作がフィクションなら心温まる作品として鑑賞に堪えられますが,実話だと知り,主人公のあまりにも杜撰な計画にあきれかえってしまいました。

主人公のベンジャミン(マッド·デイモン) は半年前に愛妻を亡くしたばかりの,14歳の息子と7歳の娘の父親です。自宅周辺の環境が良くなく夜になると騒音がひどいことと、息子が悲しみのあまり学校で問題を起こし,退学となったことがきっかけで、彼は郊外の動物園付き住居へ引っ越しします。
住居の元々の持ち主は故人となり,その遺産を使って動物園を維持していたようです。住居を購入するにあたり、動物園の運営も条件に入っており,ベンジャミンは子供たちの傷ついた心を癒しながら,休園状態だった動物園を開園するために尽力しますが…。

本作がどれだけ事実に忠実であるかはわかりませんが,これが本当の動機だと言うのなら,作品から受ける印象はよくありません。いくら妻の死から立ち直るために冒険が必要だといっても,畑違いの職業に就くのは無理があるし,そのような理由で生命を扱う職業を安易に選択してしまうことに共感できません。
彼が失敗したら,動物たちの命はもちろん,そこで働く飼育者たちの人生まで失わせてしまうということが,わかっているのでしょうか。生命を扱う職業は「動物園」をはじめ,水族館,ペットショップ,ブリーダー,畜産業など数多くありますが,いずれも個人で経営している方はほぼ無休で働かなければならないと聞きます。労働者にとって過酷な業界です。
作品中にもありましたが、高齢のトラをめぐり,ベンジャミンと飼育責任者(スカーレット·ヨハンソン)との考えに大きな差異がありました。彼が安楽殺を選択したことで,飼育者からの信頼を得ることができたように,ただ「可愛いから」,「可哀そうだから」などという甘い考えでは成り立たない業界です。

また,本作では資金難の問題も取り上げられていましたが,そもそもの主人公の動物への考え方がわかるようなエピソードが一切ないのでペットを飼うような感覚で受け入れたようにしか思えず,非常に浅はかな人物として描かれています。その能天気な経営者に従わざるを得ない飼育者の方や生命を預ける動物たちが気の毒に思えてなりませんでした。

余談ですが,日本を含めて世界の動物園は今後,縮小·廃止方向で進んでいくようです。来客数は大幅に減少しているわけではなさそうですが,経営自体がどこも苦しいようです。
人件費の増加も大きいのですが,本作品のトラのように,動物の高齢化も原因の一つです。日本の動物園では十分な繁殖施設を設けられず,寿命を迎えた動物の替わりは購入するしかありません。しかしワシントン条約によって野生動物の導入は難しく,動物の購入価格も高騰しています。よってこれから希少動物の減少は明らかとなり、各動物園は現状を維持することさえ難しくなります。
また、動物愛護の観点から檻の中の動物を快く思わない風潮が高まっており,イギリスでは動物園・水族館は新設できないことになっています。

私が幼かった頃の、動物園がとても楽しかったという記憶は今も鮮明です。普段見ることができない動物を目の前で観察でき、TVではよくわからない大きさなど体感でき、素晴らしい経験をしたと思います。しかし今,冷静に動物園の飼育環境を考えてみると,檻の中は動物たちにとって相当なストレスだったろうと思います。人間にとっての「動物園」の役目はそろそろ終えようとしているようにも感じます。
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