TAK44マグナム

ナイトホークスのTAK44マグナムのレビュー・感想・評価

ナイトホークス(1981年製作の映画)
2.6
俺はすごい男なんだ!


俺たちの兄貴、シルベスター・スタローンが屈強な元特殊部隊の猛者ジョン・ランボーを演じた大ヒットシリーズもいよいよ公開される5作目が最終作となります。
そんなわけで前哨戦として(?)手持ちの中からスタローン主演作品を探したところ、キングレコードのBDを3枚買ったら1枚もらえるキャンペーンでゲットした本作がまだ未開封のままでしたので、何十年も前にテレビで観た以来の観賞とあいなりました。

これ、元々の監督はすぐにスタローンがクビにしてしまったので、実質的に仕切ったのはスタローン自身みたいですね。 
だけれども何故かスタローンの俺様映画っていう感じはしません。
主人公のディークに型破りな個性が感じられないのと、あとは多分、敵役のルトガー・ハウアーの存在感が大きすぎて霞んでしまうのでしょう。
ハウアーにとって初めてのハリウッド作品でしたが、見事に主役を喰う演技を魅せたわけですね。さすがはレプリカント(←違う!)
それに気づいたスタローンはハウアーのシーンを大幅に削ったらしいのですが、それでも殆ど主役はハウアーの様に映ります。
まぁ、敵がショボかったらこういう作品は成功しないので、その点でルトガー・ハウアーの起用は間違いではなかったといえます。
興行的にもうまくいかなかった本作、正直いってルトガー・ハウアーの冷酷無比なテロリストに成り切った見事な演技がなければ凡作にもなり得ない、たんなる失敗作で終わっていた可能性が高い。
それには様々な理由があるのですが、1番大きな原因は現場が混乱した結果、仕上がった作品が長尺であり、荒唐無稽な(と、当時は思われていた)ニューヨークでのテロ行為を扱っていたことからスタジオ側が編集権を強行して勝手にカットしまくってしまったことだと思われます。
大幅に削られたとはいえ、テロリスト側を描かないことには始まらない話なのでハウアー演じるウルフガーには最低限の人物描写が残されました。
つまり、非情な凶悪犯というキャラクターをこれでもかと印象づけるシーンは残されたわけです。
それをハウアーがものの見事に肉付けして演じたので、首の皮一枚つながった仕上がりを得られたと言えます。
逆にいえば、ウルフガー以外のキャラクターに魅力が全然ないという、映画として致命的な欠点が誰の目から見ても露わ。
少なくとも個人的にそう思えて仕方がありません。

なにしろ主人公のディークからして人物像がボヤけてよく分からない。
アクションに特化したモノにしようとスタジオが重要なシーンを丸々カットしたおかげで、人間ドラマが希薄になってしまったせいです。 
人物が掘り下げられておらず、誰も彼もが記号化したまま、ひたすらテロリストと警察が追いかけっこをするだけの展開に終始した挙句、感情移入できるキャラクターが組織とうまくいかずに孤立した狂えるテロリストだけという異常事態に・・・(汗)
ディークは元兵士で、戦場では50人以上の敵兵を殺害した実績をもっていると説明されます。
しかし何故か銃を撃つことを躊躇するんですね。そのせいでウルフガーをとり逃してしまいます。
人質に当たる可能性があったのは確かですが、ディークの銃の腕前が確かな描写もあります。
どちらかというと何かトラウマがあって引き金を引けないといった風です。
しかし、それが何なのかは語られません。
どうして戦場の英雄が銃を撃とうとしないのか?
想像するに、その理由が語られるシーンもカットされてしまったのでしょう。
かくして、本来なら最も深掘りされなければならない主人公がただの刑事でしかないキャラクターになってしまったわけです。
ディークには別れた妻がいるのですが、お互い未練があるという設定で、これがラストシークエンスに活きてきます。
その元妻役を「地上最強の美女バイオニッカジェミー」で有名なリンゼイ・ワグナーが演じています。
本作のキャスト陣でも目玉となるようなスターですね。
なのに完成した作品で彼女の出番は信じられないぐらいに少ない(汗)
ウルフガーの相棒である女性テロリストの方が出番が断然多く、かなり目立つぐらいです。これではヒロインが誰なのか分からないですし、ヒロインがテロリストなら主人公はウルフガーの方になってしまいそうです(苦笑)
リンゼイ・ワグナーが登場するのは、ディークに訪ねられるシーン、ディークと少し話し合うシーン、ディークと電話で話すシーン、そして・・・
と、99分の尺のうちの僅かだけ。
ディークの心の拠り所であり、ウィークポイントでもある重要な役にもかかわらず、です。
これは完全におかしい。
どうやらディークと食事しながら話すシーンなども撮影されたらしいのでバッサリとカットされてしまったのでしょうが、リンゼイ・ワグナーにとっても不本意でしょうし、作品にとっても失策なのは間違いないです。
至って平凡な刑事でしかなくなったディークは、観客がスタローンに期待するキャラクターではなくなってしまった・・・これが本作最大の難点だと思います。
いくら髭面にして、女装させたりしたところで、奇抜ではあってもそれは外面だけ。
「コブラ」のように単純でもよいので生活面や内面も描かれなければならないのに、単独の刑事としても、相棒(スターウォーズのランド役で知られるビリー・ディー・ウィリアムズ)とのバディものとしても大して見どころがないのですから成功するわけがない。
当時のスタローンといえど、スター1人が出ているだけで成功するほど映画製作というプロジェクトは甘くはありませんよね。

一方、アクション映画としてはどうなのか?なのですが、これもまた厳しい。
そもそもアクション映画として売ろうとした割にアクション濃度が低い。
ド派手といえるのは、二回ある爆破シーンと終盤のバスが飛ぶシーンぐらいです。
爆破のプロのような登場だったのに、最終的にはロープウェイを占拠っていうのが、どうにも収まりが悪い感じがします。
最後も爆弾を絡めてほしかったですね。
中盤の地下鉄を利用した追いかけっここそスリリングでしたが、他が平板なのでさっぱり盛り上がりません。
ラストもサスペンスフルで悪くはないけれど、ちょっと描写が弱い。
聞いた話によると、特殊メイクのディック・スミスが手掛けたウルフガーの頭が破裂するショットがあったらしく、あれだけ傍若無人な悪党の最期なのだからそれぐらい派手でも良かったのではないでしょうか。
レイティングの問題なのかな?

結局、ドラマとしてもアクションとしても中途半端な出来映えで、スタローンの胸中が窺い知れます。
思うに、本作の失敗が「コブラ」という快作を作らせたのでは?
「コブラ」は徹頭徹尾、アクションに特化した映画で、カルト組織である敵は不気味なだけで記号化された存在でした。
なので必然的に主人公であるコブレッティが引き立ちます。
コブレッティもディークと同様に内面など描かれませんが、「型破りで破天荒、でも正義漢」という非常にキャッチーな人物像が、格好いい台詞や暴力描写、そして冷凍ピザをハサミで切って食べるといった独特の生活描写によって語られます。
なので、今でも「コブラ」という作品の熱狂的なファンはたくさんいますが、「ナイトホークス」のファンはそこまで多くはないと思います。
「スタローンが髭面のやつ」とか「スタローンが女装してるやつ」という感想になりがちなのではないでしょうか(汗)
ただしルトガー・ハウアーからすると、ハリウッド進出作で存在感を示せたことから後のオファーに影響した重要な作品なのかもしれませんが。

ルトガー・ハウアーといえば、冒頭のロンドンでのデパート爆破からして完璧にテロリストに成りきっていたと、そのシーンで共演したキャサリン・メアリー・スチュワート(「ナイト・オブ・ザ・コメット」主演)が語っています。
とっつきにくく、怖かったそうです。
しかし、そのお陰で緊張感のある芝居ができたそうなので、それもまたハウアーの意図したことだったのかもしれませんね。

まだ若かったルトガー・ハウアーの怪演が目的なら本作のチョイスもありでしょうけれど、スタローンの刑事アクションが観たければ「コブラ」でしょうし、バディものが観たければ「デッドフォール」などの方をオススメしておきます。


テレビ放送、セル・ブルーレイにて