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花ちりぬのzhenli13のレビュー・感想・評価

花ちりぬ(1938年製作の映画)
4.8
あらためて、この映画の構造そのものが完璧だと思った。茶屋とその中で行われていること、それを為す女たち、時間の流れ、すべてが回廊式の茶屋を渦巻いて、男に拘泥する者だけが取り残され、やがて螺旋状に昇華する。花井蘭子は男からの文を捨て「おかあはん」と呼ぶ。
2022.7.22 「石田民三特集」国立映画アーカイヴ


女だけの圧倒的な室内劇。
この茶屋空間の撮り方!回廊式の広い茶屋の内部は障子や襖が開け放たれ、建物の構造も何処から何処へ移動しているかもわからなくなる。カメラの行先に芸妓や舞妓が点在しており、またイマジナリーライン超えもあるためカット変わりで惑わされる面白さ。
階段を上がる花井蘭子と水上玲子の会話をカメラがゆっくり上がりながら追う、下女が首の蚊をパンと叩いてから燗を拭く、という動的な流れも素晴らしい。

刃競り合いや大砲の物々しい音と男たちの声が聞こえるなか、部屋から部屋へ華やかな振袖をひらひらさせて同じ方向へ急ぐ舞妓たち。この舞妓たちの集団の動きが要所要所で挟まれ、政変の渦中にある外の様子とそれを扇動している男らの姿は最後まで映されることがない。
タイトルバックでの金魚鉢の金魚は、この振袖の少女たちを表してる。男に翻弄され逃げるか従属するかしかない彼女らは茶屋の空間においてシスターフッドをみせる。

茶屋を縦横無尽に賑やかに行き来していた女たちが消え、花井蘭子がぽつんと残され、遠くに町中の炎を見る。回廊の茶屋から螺旋を描くように宙へ収斂されるこのダイナミクスよ。やっぱり石田民三すごいわ…
2021.9.21
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