イペー

メアリー&マックスのイペーのレビュー・感想・評価

メアリー&マックス(2009年製作の映画)
4.3
メルボルンとNY、世間からはぐれてしまった少女と中年男。
20年間に及ぶ手紙のやり取りで、分かち難く結びつく、ふたつの孤独な魂。

キッチュにデフォルメされたキャラクター達の造形。
物語はほのぼのとしたタッチで紡がれますが、実はかなり暗く重たい。

何しろ細やかで精緻なストップモーションアニメ。
登場人物に与えられた豊かな感情表現も、そのほとんどがマイナスの方向に振れているものだから、鑑賞中は心がザワザワして仕方がなかったですよ。

メアリーとマックスの内面が、ナレーションとモノローグによって丹念に語られる一方で、彼らの身内や隣人、ペットなどの脇役はほとんど喋りません。

アル中の母親、広場恐怖症のお向かいさん、吃音症の幼馴染、視覚障がいの隣人。
セリフこそ少ないけれど、欠落やら喪失やら、彼らが抱える"生きづらさ"を描くことにも余念がない。

主人公ふたりの描写が丁寧であればこそ、物言わぬ脇役たちの存在が活きてくる。
その遠近感が作品世界に奥行きを与えているのであります。

見え方に違いはあれど、メアリーやマックスが直面する苦しみや痛みは、何も特別なものではなく。

登場人物たちのみならず、観客である我々も含めた、全ての人間が持つ"弱さ"に対して、優しく誠実な眼差しが注がれています。

ラストシーンはもうね、言葉にならんよ。
切なくて、寂しくて、温かくて…。

多少みっともなくても、どうにかこうにかバランスを取って生きている。
人間ってのはそんなもんだし、自分もそんな人間だし、まぁケ・セラ・セラで頑張っていこう…とボロボロ泣きながら停止ボタンを押したのでございました。

…「心が洗われた!」とは言っても、長年に渡ってこびりついた頑固な汚れは、そんな簡単には落ちないのであります。
とりあえずは、来週に控えた親知らずの抜歯、ここを無事に乗り越えてから、我が人生に向き合おうと思います…。
イペー

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