凛太朗

スリ(掏摸)の凛太朗のレビュー・感想・評価

スリ(掏摸)(1959年製作の映画)
4.0
過剰な演出を極端に削ぎ落とすことから生じる徹底的なリアリズム。
ミニマルな演出の中で光るスリの巧妙な手つき。

ドストエフスキーの『罪と罰』で、ラスコーリニコフは「非凡な人間は、世の中を良くするためなら道徳に反する行いをしてもいい」という独自の考えのもと、質屋の老婆を殺害してしまいますが、なるほど、批評家が指摘するように、これは確かにこの映画の主人公ミシェルに通ずるもんがあるし、罪を犯した男を女性が赦すというラストも同じである。
主人公からはラスコーリニコフ的な孤独も感じられる。

スリを働く動機は、単にミシェルにスリの非凡な才能があったからなのか、孤独を埋めるためなのか、スリルを求めるためなのか?
例えばコンビニやスーパーマーケットで万引きを働き、万引きGメンに咎められて店の奥に引っ張られるおばさん。TVでよく見るやつ。
お金がないわけでもないのにやってしまう理由は何なのか?
勿論スリも万引きも、理由があったらいいってことにはならない。疎遠の親が亡くなろうが、太陽が眩しかったからという理由で人を殺してはいけないのだけれど。
カミュの『異邦人』的な匂いもします。
凛太朗

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