最初はめちゃくちゃ怪しい青年のおはなし。
スリに手をつけ始め、次第にプロとしてスりまくるミシェル(マルタン・ラサール)。
彼が練習に練習を重ね、身につける色んな技が面白く、連携プレーはさらに面白い。『グランド・イリュージョン』に通じるものを感じさせるトリックの数々にひそかには興奮した。
警察との攻防もまた面白かった。
「スリ」という行為を、対象に触れるようで触れない行いと考えるならば、警察とのやり取りもまた一種のスリ合いに見えてくる。
運が良ければ能力が無くてもスれるし、運が悪ければ能力が有ってもスられるのは、対になっているようで面白い。
まぁそれらの数あるスリの手口や、警察とのかけあいも勿論見応えがあるのだけれど、一番の見所は恐らくラストのラストだ。
ミシェルはスリを幾度も犯してきた犯罪者であり、つまり警察から逃げる者であったわけだが、実は彼には警察よりももっと逃げている存在があった訳だ。それについてラストに呟かれた一言、そうして静かに求めるショットはとても美しい。
数多の人物の持ち物に触れてきたのに、一人の愛する人物本人には触れられなかった男の道。
だがしかし、その回りくどすぎる道を歩かなければ辿り着けない秘境があったのだ。
…では、彼らの結末たる秘境の先に思いを馳せながら、僕もここらで心地のよい眠りにでもつくとしようか。