シュローダー

マネーボールのシュローダーのレビュー・感想・評価

マネーボール(2011年製作の映画)
4.5
野球というスポーツに一切の興味を持たない自分の様な人間でも、非常に楽しめた。何故なら、この映画で描かれるのは、「定められていた体制に反抗する反逆者」の物語であり、「冷徹な男が人情によって変わっていく」という普遍的なモチーフを扱っている。これも、脚本の布陣を見れば納得である。アーロンソーキンとスティーブンザイリアン この2名の功績が非常に大きいと思う。アーロンソーキンならではの、情報量の多さをパンクさせる事なくスマートに観客に示す作劇と、機械的な男が人間性を取り戻していくまでをエモーションたっぷりに描く物語性。スティーブンザイリアンの、アウトサイダーを描く手腕が見事な融合を果たしている。だが、やはり濃厚なのはアーロンソーキン節。「ソーシャルネットワーク」「スティーブ・ジョブズ」「モリーズゲーム」に非常に近い。これらの作品と連続して観ると、アーロンソーキンとはラストの素晴らしさにかけては天下一品の脚本家だと気付かされる。今作で言えば、ビリーの娘が歌う歌の歌詞が泣かせてくる。特にラスト「もっと"野球"を楽しんで」という歌詞はズルい。このラストの余韻の為に133分があったのだと確かに思わせる粋な幕切れである。役者陣も素晴らしい演技だった。特にブラッドピットの円熟した演技は安心して見られるし、ジョナヒルもコメディ演技を封印しても魅力的な役者である事を証明した。総じて、燻し銀な魅力が光る隠れた傑作だ。あの素晴らしいラストが味わえただけで良かった。