秋日和

そして船は行くの秋日和のレビュー・感想・評価

そして船は行く(1983年製作の映画)
4.0
映画監督と魔術師、という異なる職業をイコールで結びたくなるイタリア映画界の巨匠・フェリーニが63歳の時に撮った作品。「最盛期の力は最早なくなってしまっている」と言われることもしばしばだけれど、自分としてはかの大傑作『フェリーニのアマルコルド』と同じくらい愛おしい一本となった。
音も色も無かった、「何かをフィルムに記録する」役割を担っていた頃の映画を回想するように本作は始まる。カラカラと映写機を回す以外の音は世界に響くことなく、褪せたセピア調の画面はカラーフィルムというものの存在を知らないかのようだった。そんな嘗ての景色に魔術師・フェリーニは色と音をつけてみせ、豪華客船の船出を祝う。
所々、おかしなことがやりたいのだろうけれど、あまり面白くはないですよ……と言いたくなるシーンがあり、やっぱり世評通り微妙な映画なのかなと少し思ってしまったのだけど、いや、そんなことは決してない。月の光に照らされている女と、太陽の光を浴びている男が見詰め合うシーンは途方もなく美しいし、「差別によって引かれた境界線を越えることが出来るのは優しさと楽しさだけだよ」とフェリーニがこっそり耳打ちしてくれるかのような、とびっきり素敵な夜のダンスシーンは観ている間中ずっと幸せな気持ちでいられたし、「出逢い」と隣り合わせにいつも存在している「別れ」を癒してくれるかのようなドビュッシーの『月の光』も本当に心地良かった。
今までずっとビジュアル面にしか注目していなかったのを後悔するくらい、この映画は彼の人間賛歌に満ちていたように思う。フェリーニありがとう。
秋日和

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