「お前は最後に殺すと約束したな」
「そうだぁ大佐、た、助けて……」
「あれは嘘だ」
「ウワアアアアアアア!!!!」
玄田哲章による吹替版で鑑賞。日本のネット界隈において、ある意味で最もメジャーなカルトムービー。そして“80年代のアクション洋画”を究極の形で体現する、一種の概念的映画。ムキムキのシュワルツェネッガーが銃器をぶん回して軍隊相手に大暴れする姿、まさに“大味なハリウッド・アクション・ムービー”を象徴する原風景のようなノスタルジーに溢れている。同様のマッチョ映画でありながら、曲がりなりにも悲壮感や政治性を根底に据えていた『ランボー』とは一線を画している。
開始5分と経たずに元コマンドー3人がド派手に殺され(ベネットはトリックだけど)、オープニングを経てカービー将軍との「君の命を狙う者がいる……」というやり取りを終えた直後にはもう敵が襲撃を仕掛けてくる。この映画、とにかく観客を飽きさせないテンポ感に溢れているのだ。細かなツッコミどころはひたすら勢いと外連味で振り切り、スリルとアクションが適度な配分でお出しされ、その合間もウィットに富んだ台詞回しが繋いでいく。そんな作風をアーノルド・シュワルツェネッガーの圧倒的な存在感がパワフルに纏め上げるのだ。「連れを起こさないでくれ。死ぬほど疲れてる」「筋肉モリモリマッチョマンの変態だ」など、日本国内の吹替版は翻訳・意訳ともにユーモアに溢れてて非常に良い。
主人公のジョン・メイトリックスは“戦いを捨てて、家族との生活を選んだ男”である。本人も過去に触れられた時には「聞くべき話じゃない」と濁すなど、相応の修羅場を潜ってきたことを匂わせている。しかしそんなバックボーンを背負っているにも関わらず、メイトリックスは自らの武力行使に一切の心理的躊躇を持たないのである。殺す時は迷わず殺す、たまにド派手に殺す、そして余裕のジョークを飛ばす。理由は明白、ムキムキのシュワルツェネッガーを存分に暴れさせる方が映画が面白くなるからである。牧歌的なまでに純化された本作の暴力性、最早テーマパークの領域である。「買い物だ」と言って真顔で店舗に重機を突っ込ませるシーンなど、シリアスな笑いも多いので一層憎めない。
本作はそういった数々の要素が噛み合い、ジャンクな娯楽性が高水準で成立している。B級映画の陳腐なテイストを下地にしつつ、観客を楽しませるためのリズム感に溢れているのだ。おかげでシュワルツェネッガーの活躍を失速させる要素が殆ど無く、ストレスフリーで映画を楽しめる。巻き込まれた身でありながら腹を括ってからは終始的確なサポートをするシンディ、父親譲りの度胸と利発さを持つ娘ジェニーなど、ヒロイン達も行動的かつ有能なのが清々しい。フレディ・マーキュリーを彷彿とさせるベネットを始め、メイトリックスの前に立ちはだかる悪役達の妙な存在感も味わいに満ちている。
余談ながらシンディを演じたレイ・ドーン・チョン、その後クリス・プラットをスカウトして俳優の道を歩ませたことの功績がデカすぎる。