オルキリア元ちきーた

世界最速のインディアンのオルキリア元ちきーたのレビュー・感想・評価

世界最速のインディアン(2005年製作の映画)
3.7
世界最速のインディアン
2007年 ニュージーランド・アメリカ合作
ロジャー・ドナルドソン監督(トム・クルーズ主演の「カクテル」他の監督)
アンソニー・ホプキンス主演

1901年の5月、二人のアメリカ人の若者が「インディアン・モーターサイクル」の前身となるバイク会社を創設した。
アメリカで初めてのバイク会社である。
現在、アメリカを代表するバイクメーカー「ハーレー・ダビッドソン」より2ヶ月早い産声だったそうだ。
当時「バイク」と言ってもまだ自転車に原動機がついた、今で言えば「アシスト自転車」の様なものだが
そんな代物で時速90キロ以上の速さで走る、というのは、今考えても相当怖い乗り物だ。

まだバイクという乗り物が生まれたての頃から、毎年の様に様々な改良を重ね
完走しただけで話題になる様な時代から、様々なレースで様々な記録を作り出していく。

1909年には、現在のハーレーの車体にも採用される、基本的な形になるバイクの骨格を考案したメーカーでもある。
また、それまで動物の革を使っていた駆動をチェーンに変えたり
電動のスターターやヘッドライトなどを世界で初めて採用したりして、最新で革新的なバイクメーカーとして話題を作っていった。

トレードマークの真っ赤なバイクのデザインは、1918年には日本の警察用バイクにも採用され「赤バイ」と呼ばれていたという。
当時の日本のプロレスラー力道山もインディアンがお気に入りだったという。

しかし、第二次大戦後から経営が悪化し、1959年には倒産してしまった。

そんな「インディアン」〜1920年製「インディアン・スカウト」〜を、ニュージーランドに住むバート・マンローは
改造に改造を重ね、世界最速のバイクに仕立て
1962年(63歳)で一度
更に改造を施して1967年(68歳)でもう一度
世界最速記録を樹立している。

アメリカのユタ州にある干上がった塩湖で行われる「ボンネビル・ソルトフラッツ」というレース。

巨大な塩湖跡は琵琶湖の三分の二ほどの広さの平坦な土地で
世界中の「直線番長(乗り物をひたすら真っ直ぐ速く走らせるのを自慢する人を揶揄する言葉)」がその「気合い」を披露する場となっている。

そこで、色々な部門別の直線番長がいるわけだが
バートは「1920年製のインディアン(排気量1000cc以下)」という部門での直線番長のレジェンドで
当時彼が出した記録は
今でも破られていない。
(但し、「1920年製1000cc以下部門」というのがミソで、そんな博物館行きのクラシックバイクで最速を目指す無謀者もバイクも、もう現れないから、というのが本当のところだろう)

しかしバートが世界記録を叩き出した頃には
すでに「インディアン・モーターサイクル」というバイクメーカーは消滅していた。

投資家による再興と倒産を繰り返したり、そのブランド名「インディアン」の使用権をあちこちで主張しあったりといった
バイクそのものでは無い部分での揉め事に翻弄され
半世紀近い時間の流れと共に忘れ去られようとしていた。

2005年、この直線番長レジェンドジジイを主人公にした本作「世界最速のインディアン」が制作され、2007年に世界で公開された。

実話に基づくフィクションだが、老人になっても自分の信念を貫く執念や
夢を叶える為にひたむきに前進し続けるドラマティックな演出と
アンソニー・ホプキンスの渋くてクスっと笑える熟練の演技で見応えのあるサクセスストーリーに仕上がり
また「インディアン」というバイクが、人々の話題にのぼり、関心が高まっていく。

そして2008年には、アメリカ・ノースカロライナ州のある工場で、新しいインディアンが作られることになる。

しかし、実は2004年には、この「インディアンモーターサイクル」という会社は始動準備が始まっていた。

ある投資家がこの会社の商標権や様々な特許を取得し
ブランドイメージをブーツやTシャツなどで地道に広めていき
復活の機会を狙っていた。

その翌年に映画を製作し、2007年公開され
そしてその翌年には工場での生産再開
2009年にはブランド復活後のリニューアルモデルを発表し
2011年には完全復活を果たした。

偶然にしては実によく出来た復活ストーリーではないだろうか?

何はともあれ、インディアンというバイクが昔から培い打ち立てた、様々な記録や先鋭的イメージがあってこそのバート・マンロー物語であり
それを上手く利用して、ブランド復活にブランドの伝統やエピソードを添えたのだろうか?

もしそうだとしたら、裏にはかなりの策士がいるのかも知れない。

物語単体でも充分面白かったが
インディアンモーターサイクルという会社と絡めて見た時に
また違った面が見えてきたのが面白かった。