1950年代ビート・ジェネレーションの代表的な作家ウィリアム・S・バロウズの、本人全面協力で作られた唯一のドキュメンタリー。詩人アレン・ギンズバーグ、画家フランシス・ベーコンなど仲間も出演。
ビート世代には興味を持っていたが、なかなか取っ掛かりが掴めないでいた。それが本作を観たことで随分と解像度を上げることができた。
体系的な経歴説明などは無く、バロウズによる詩の朗読パフォーマンス、本人と仲間へのインタビュー、“カットアップ技法”というモンタージュ文章術など、彼の様々な断片が映し出されていく。
一寸見はスーツを着て紳士的で、歯切れよくリズムある詩の朗読はボブ・ディランの歌を聴いているかのよう(両者互いに影響し合っていたとのこと)。しかし観進めていくうちに薬物依存ジャンキーとしての暗黒面が見えてくる。中でも、妻の頭の上にリンゴを乗せてウイリアムテルごっこをしているうちに誤って射殺した事件には呆然とさせられた。それを4歳の時に目の前で見ていたバロウズ・ジュニアは若いうちから薬物と酒に溺れ、本作出演直後の1981年にアルコール依存症で亡くなった。享年33歳。
アーティストとしては才気が感じられたが、それ以上に人でなしさが伝わって来た。射殺事件後も活躍し続ける事例は日本では考えられないと思う。しかし、バロウズらビート・ジェネレーションのドラッグ文化を通過して現在のアメリカンカルチャーに至っていることは重要な事実であり認識しておきたい。
とにもかくにも、ビート世代入門編として取っ掛かりができたので今後は少しずつ深めていけそうだ。大きな学びとなる鑑賞になった。「裸のランチ」(1991)も観直してみたい。