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テンプル森のギャングたちのCHEBUNBUNのレビュー・感想・評価

テンプル森のギャングたち(2023年製作の映画)
3.5
【退屈そうな王子は全てを手にする、そんな彼は狙撃される】
名前こそ知っていたが初エンカウントとなるザイメッシュ作品。フランスバンリューもの×フィルムノワールながら新鮮なアプローチで富める者とそうでない者を捉えていく。

映画はストローブ=ユイレのごとしパンでバンリューを捉え、虚空を見つめる男へと迫る。家族が亡くなり、葬式まで静かに行為を見つめていき満を期したように美しい声が木霊する。

映画はタイトルに反し、牧歌的もといどんより虚無が流れる団地の日々を映すのだが、襲撃事件と報復が日常を侵食していく。黒沢清映画のようにいつしか暴力の渦中へと迷い込む異物感が映画を支配する。

本作において最も重要なのは、王子狙撃までの過程にある。狙われる王子はまさか自分が殺されるとは思っていないかのように馬をみたりアートを買おうとしたりする。彼は富豪だが、オタク的執着はなくとりあえず消費する存在として描かれる。彼はリアルで馬を見るし、都会を虚構的に落とし込んだアートも買う。

しかし、バンリューに押し込められた人々はヒリついた現実を歩くしかなく、ミニバーのテレビから競馬を観ることで夢見るしかない。そんな者の渇きが富豪に復讐の一弾をお見舞いするのだ。

まさしく、イ・チャンドンが『バーニング 劇場版』で語ったグレートハンガー論の別角度を魅せる一作であった。
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