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若者の旗のsayuriasamaのレビュー・感想・評価

若者の旗(1970年製作の映画)
4.6
いつの世も迷い、ぶつかる若者の生き様

俳優座映画部『若者たち』シリーズラスト作品。というのも、佐藤家5兄弟の俳優さん方はTVドラマから足掛6年演じてきており、もはや若者と呼ぶには厳しい年齢になったことで、ここで一区切りらしいです。(田中邦衛はこのとき38歳らしく...)

オムニバスなのでまた書きにくいですが

今作の主役は松山省二演ずる末吉が主軸になっています。今まで全然でて来なかったしね。ここでようやく本筋に絡んできます。
末吉は自動車のセールスマンになっており、米軍基地勤務の外国人から、運送会社、はたまた兄三郎の勤める出版社に社用車を売り付けたりとモーレツに働いています。しかも、所長の姪までゲットして前途洋々の日々を目指しているなか、街の鳩のみが友達という孤独な女性(山口果林)と出会います。
今作は、この末吉の生き様がメインで、そのほかの兄弟のストーリーはというと

・引き続き一家の大黒柱として頑張る太郎
・次郎は町子と結婚して、いよいよ子供が生まれるという時に、空箱を持ってぎっくり腰になり、入院するも労災が降りず町子から別居をちらつかされて.. .と右往左往する役回り。
・三郎は昼は出版社、夜は夜間中学の教師をする日々。昼の仕事では公害問題について取材するも、またその真っ当すぎる論調に周りがついてこない悪循環で..
・オリエは戸坂との婚約を夢見て準備していましたが、なんと戸坂は別の女性(彼女も被曝者)との結婚を決意。それでも戸坂の将来を案じる「信じられないくらい」健気な女性として前を向いて歩いていきます。

いやー前作はいわゆる続き物特有のエネルギー不足を感じてしまいましたが、本作は末吉を主軸に、それぞれ兄弟が成長し、少し生活に余裕が出てきた社会ならではの問題に直面していく姿は現代人も十分理解できるものであり、映画としての内容は濃密でした。

末吉の手段を選ばず「モーレツ」に生きている姿勢は時代にのまれ、自分を見失い、機械的な現代人の生き方を示唆しています。その生き方に一石を投じるのは山口果林演じるチエ。そして最終的には末吉と別れるみわ。末吉の話だけでも結構満足します。ちなみにタイトル『若者の旗』の旗は、末吉が営業No1を取った記念のペナントのことです。ラストのこの旗の状態は示唆にとんでるなあ。

その点、一番コミカルであり、明るくて、希望を持たせてくれたのは次郎かな。桃太郎という息子を授かりましたしね。ぎっくり腰で動きにくそうな歩き方もね、話の流れでは三枚目ポジションでしょう。組合員勧誘のために家で宴会騒ぎを続け、町子に嫌がられて挙げ句、子供が産まれたら、連れていつでも別居する!と言われているとか。あの夫婦はいつまでも犬も食わぬ喧嘩するでしょうなあ。

反面、太郎は古い価値観で生きているがんこオヤジポジション。あんまり活躍してなかった気が...食事中に喧嘩をする気配があると、オリエと三郎がさっと醤油注しやらおかずを卓袱台から下げる素早さに感動します(笑)

三郎はね..元々は爽やか青年であり、今はそこから成長し、今度は正義に燃えて生きていきたいのに、それが叶わない燻った大人って感じかな。でも、要所ではインテリ風なコメントを残していて、アクセントとしてはバッチリ。

でもなぁ。オリエちゃんは健気過ぎるでしょ。前作では戸坂は1シーンしか登場してなくて、蓋を開けてみたらなんと「別な人を愛してます」なんて告白されちゃって。でも健気に将来を案じる...
まあ、みんなのお母さんとしての言動が染み付いちゃったかな。

前回のレビューで「太郎が戸坂を叱るシーンが観たかった」と書いたと思いましたが、本作では実現していました。(しかも三郎付き)
うん。一番の驚きは直毛で好青年すぎる青年風だった戸坂の髪型が高木哲也先生になっていたことかな(笑)。もじゃもじゃまでいかなくとも、ゆるふわパーマかかってて(驚)映画撮影のタイミングと石立鉄男のイメチェンのタイミングが合わずに妙に一人だけバタ臭い感じというか.. .戸坂さんいつグレた?という感じでした。でも田中邦衛と山本圭に叱られていて意外と新鮮でした。「あなたは弱いもの同士は弱いもの同士で固まらないといけないとでも思っているのですか?」という三郎の言葉は厳しかったなあ。

普通は三部作は一作目よくても、だんだん悪くなるのが定石。でも3作品、それもラストが結構濃密なところ、すごいなあと思いました。
平成も先がみえてきて、昭和も戦後も遠ざかるなか、こういった作品が観れたことは良かったなあ。

星は満点つけたかったけれど、石立さんの髪型イメチェンが映画の清貧なる雰囲気から浮いているのが否めなく(ファンでも肩は持てない..)その分減らしました...短髪ストレートならなあ。
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