櫻イミト

Me, Grandma, Iliko and Ilarion(英題)の櫻イミトのレビュー・感想・評価

4.0
題名邦訳「僕、おばあちゃん、イリコとイラリオン」。テンギズ・アブラゼ監督の3本目となるヒューマン喜劇。ジョージアの人気作家N・ドゥンバゼの同名代表作(1960)の映画化。

第二次世界大戦の直前。ジョージア(グルジア)の平和な農村の高校生ズリコは両親を亡くし祖母オルガと暮らしていた。彼には近視の猟師イラリオンと、片目の男イリコという親切で風変わりな隣人、そして同級生の恋人メアリーがいた。やがて戦争がはじまり村からも徴兵され、多くの男たちは帰らぬ人となった。戦後、ズリコを首都トビリシの大学に進学させようとイラリオンとイリコは牛を売りに行く。充実した大学生活を送るズリコ。新しい恋人もでき、間もなく卒業を迎えるが。。。

あらすじでは伝わらない郷愁に満ちた一本。アブラゼ監督作品の代名詞とも言えるグルジアの広大な大地を舞台に、青年目線の人間ドラマがユーモラスに綴られていく。地平線まではてしなく続く道。他に類のないロケーションの中に配置された人々の歩みを、移動カメラ、クレーンカメラが追いかける。素人演者を配置で見せる手法は表面的にはブレッソン監督のシネマトグラフを連想させるが、受ける印象はまるで違う。ブレッソンの演出は冷徹で尊大、対して本作の演出からは人間の温もりが伝わってくる。

イラリオンは近視のためにズリコの愛犬をウサギと間違えて撃ち殺してしまう。トボトボと無言で帰る二人を映し続けるカメラ。死のイメージは次の出兵式のシーンへとつながっていく。戦場や死は決して直接的には描かれず、荒涼とした大地にたたずむ老人たちの姿で示される。

ひとつ大いに気になったのが、ズリコとメアリーの初めてのキスシーン。キスをする直前にズリコが恥ずかしそうにちらりとカメラの方に目を向ける。第四の壁を破っているわけだが、何だかドキュメンタリーの様な効果を生んでいる。意図的な演出なのかNGカットを採用したのか判断しかねるがとにかく印象深い。これが後半の、都会での新しい恋人とのキスシーンの布石になっているのが面白い。

ラストのオルガおばあちゃんとの別れ、一人で地平線の方へ歩いていくズリコの元に駆け寄り隣で歩を合わせるメアリー。この土地での輪廻を思わせるズリコのモノローグ。アブラゼ監督のフィルモグラフィーの中では少々異質かつ最もロマンティックな、非常に味わい深い作品だった。
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