【静けさの中の殺戮】
ラヴ・ディアス監督新作が久々のカラー映画ということで期待高まる。ここ数年のラヴ・ディアス作品にはマンネリが感じられ、フィリピンの地方都市から政治的侵略を描くアプローチに限界を感じていたわけだが、今回の『Magellan』そして次回作の『Amazon』を通じて、マクロ的な目線で侵略と政治の関係性を紐解こうとしている。一貫性を持ちながらダイナミックに方向転換したわけだ。しかも強力な助っ人にアルベール・セラがいる。映画という物語の外側に関心を向けてきたアルベール・セラと、社会の外側としてのフィリピン地方都市を描いてきたラヴ・ディアスが共鳴するとどうなるのか。それは面白い化学反応となるわけだ。
裸の先住民女性が川で食料を探していると、カメラと目が合う。「はっ白人だ!」と叫びながら逃げまどう。白人が土足で上がり込むのだ、映画はドライに始まりと終わりを繋ぎ、プロセスを排除して虐殺の結果を提示する。歴史中で多くの名もなき者が殺されたのだが、数百年後の世界では1行、あるいはひとつのイメージで事実が語られる。その暴力性をメタ的に描いている。
やがて映画はマゼランの航海へと眼差しを向ける。冒険映画としてのスペクタクルはほとんどない。船は安定稼働している。陽光も美しい。しかし、暴力はある。逃げ場のない船で暴力が行使され主従関係が築き上げられるのだ。やがてマゼランはセブへと到着する。そしてキリスト教を布教する。
ここで注目すべきは、布教と共に土着的な木彫りが山のように積み上げられ償却される場面が挿入される点にある。殺害された人間の山以上にグロテスクな場面として映し出されるのだ。色彩を得たラヴ・ディアスの新境地に圧倒されたのであった。