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マルティネスのalmosteverydayのレビュー・感想・評価

マルティネス(2023年製作の映画)
3.5
主人公マルティネスはメキシコで働くチリ人、キービジュアルそのままに調和の取れた規則正しい生活を送るシニア男性なのだけれど、職場で肩たたきに遭い後任としてチャラ男のパブロがやって来るところから物語が動き始めます。ほぼ時を同じくして爆音でテレビを鳴らし続ける傍迷惑な階下の住人が人知れず亡くなっていたことを知るとともに、何故か主人公あてに遺されていたプレゼントが届けられるんですね。

訝しげに箱を開ける一連の動作からするとメッセージひとつなく謎だけが残るプレゼントなのだけれど、おそらくはウブで真面目な堅物のまま歳を重ねたであろうマルティネスったらその謎にこそ魅入られたとでもいうようにズブズブはまってっちゃうんですよねえ彼女に。棄てられようとしていた遺品をあらかた自室に運び込み、クリスマスのオーナメントや手製の刺繍を飾ってみたり、スケジュール帳に記されたToDoリストに沿って行動してみたり。これ、一歩間違えたら相当キモくてドン引き不可避だと思うんですけど、堅物ゆえのガチめな純情ならびにチョロさがいい塩梅に生々しさを覆い隠してコメディタッチに落とし込まれてるのが巧いなと思いました。

で、職場ではその堅物無愛想キャラ故に長年軽んじられていたっぽいマルティネスが彼女の存在を滲ませた途端、周囲の反応がガラリと変わった劇的変化にメキシコの恋愛事情あるいはお国柄を思わずにはいられませんでした。それまでの何気ない日常シーンでもイチャつくカップルが意図的にごく当たり前の背景として映し出されていたこともあって、「パートナーがいて初めてまともな人間として扱われるのが当たり前」みたいな感じはそりゃ息苦しがろう、堅物ならなおさら。と彼を気の毒に思ったりもしたんでした。

笑かしパートの真骨頂はチャラ男のパブロと世話焼きマダム・コンチタによる質問攻めで、特にこのコンチタがロバート秋山のクリエイターズファイルに出てきそうな目ヂカラ抜群ダイナマイトボディのナイスキャラだもんで、漏れ出る笑いを抑えるのが大変でした。単なる冷やかしだけじゃなく、徐々にこの二人を皮切りに周囲と心を通わせていく過程も丁寧かつテンポよく描かれていたのがよかった。通勤途中の風景を真上から垂直に見下ろしたり、誰もいないプールの水面を全面に収めてみせたりする風通しのよいカメラワークも素敵でした。
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