純

男と女の純のレビュー・感想・評価

男と女(1966年製作の映画)
5.0
こんなにお洒落で上品な映画観たことない。すべてのシーン、音楽、台詞が洗練されていて美しい。どのシーンを切り取っても、構図も色彩も芸術的でうっとりしてしまうくらいだった。美しいと言っても眩しいキラキラした美しさというよりは、憂いが混じった落ち着いた画になっていて、そこが私はとても好きだった。

お互いに愛するひとを失った男と女が過去の苦悩や葛藤にもがきつつ、現在を生きる大人の恋愛ストーリー。この映画ではシンプルに「過去」に憂いの焦点を当てているから、片親での育児の苦労は全く描かれていない。それが故に不自然なくらい生活感がなく、本当にお洒落でエレガントな、汚れたところなんてひとつもない、完璧に整った作品だった。

フランス、パリという舞台をこれでもかというくらい美しく魅せる演出も素晴らしい。やっぱりパリって雨が似合うなあ、むしろ雨が降るパリが1番綺麗だなと、フランス映画の雨のシーンを観るたびに感じる。また、場所だけでなく、車の映像もとても綺麗。同時上映の『ランデヴー』に次いで、今作でも車が走るシーンが多く登場するんだけど、その魅せ方が多種多様で、それでいてお洒落。さまざまなアングルから観る車に愛着を持ってしまいそうなくらい、魅力的なシーンばかりだった。

キャストもほんとにスクリーン映えするひとたちばかりでほんとにため息もの。主演のふたりは美男美女だし、2人の子どももとっても愛らしい。赤ずきんちゃんの話を面白くないって一刀両断しちゃう女の子も、将来消防士になって、小さい火事のときは「ちょっぴり水をかけたらおしまい。ドアが閉まっていたら斧でたたいて開けるよ、ポカン」って熱心に話す男の子も可愛すぎ!表情や仕草もほんとに愛らしくて抱きしめたくなるくらいだった。

さて、洒落てるなって思う理由のひとつに絶対あがるであろう、カラー、白黒、セピアとシーンによって色が変わる演出。私も始めは「凝ってるなあ、ほんとにお洒落」くらいにしか思ってなかったんだけど、後半で「あ、これって男と女それぞれの現在と過去の見方を表してるのかな」と思った。例えばジャン・ルイから見れば過去はセピアで表現されていて、大切だけど色あせた思い出にすぎない。しかし、アンナにとっては現在がセピア色で、過去の思い出は鮮やかなカラーとともに蘇る、忘れられない今も生きた自分だけの現在といった具合で描かれてるように感じた。

アンナは今に目を向けて生きようとするけど、幸せだった過去が頭をよぎり、自分に罪悪感を感じてしまう。ポスターには「たちきれぬ過去の想い」ってコピーがあったけど、私はそもそも過去は断ち切るべきものではないし、そんなことは不可能だと思う。かと言って引きずるものでもない。生きる限り、過去は私たちから離れない。どんなに辛い過去でも栄光の過去でも、私たちの一部であり続ける。私たちは過去と一生付き合って生きるんだから、無理に過去にすがったり、逆に切り離そうとしたりしてはいけないと思う。自分の一部として真正面から受け入れて、寄り添って生きていかないといけない。

誰にでも他のひとが知らない過去があるし、逆に言えば自分としか共有していないそのひととの時間がある。アンナが死んだ夫の話を持ち出してジャン・ルイが何も言えなくなったとき、私は思わず『グレート・ギャツビー』を思い出した。主人公は想いを寄せる女性との絶対的過去を美化するけど、彼と時間を過ごしていない間にも彼女の時間は流れていて、誰かと共有したかけがえのない時間、愛したひとや愛した場所が存在する。そんな当たり前のことに打ちのめされるギャツビーがふと脳裏に浮かんだシーンだった。今作でも、アンナと元夫との美しい過去が違う形で主人公ふたりを苦しめる。それでも愛する男と女がいたなら、ふたりは一体どうするのか。

題名からしてザ・恋愛映画なイメージを抱くかもしれないし、実際過去と愛を描いた作品ではあるんだけど、辟易するようなわざとらしい演出だとか臭い台詞、嘘っぽい作りだとかはない。それは、過去に翻弄されながら生きる人間の弱さと対照的な愛の強さを、これまでに述べたエレガントさに加えてスタイリッシュに表現しているからだと思う。ダバダバダ、ダバダバダの有名な歌の他にも使われる音楽が秀逸で、作品に絶妙な深みを出してるんだけど、その中に「愛は私たちより強い」と訳された歌詞のある歌があって、とても印象に残った。愛に限らず憂いでも絶望でも、喜びや怒りといった感情でも、いつだってそれらは私たちを超えてしまう。弱い私たちには手に負えないくらい膨らんで強くなってしまうから、私たちは悩むし狂うし泣くし苦しくなる。私たちがすべてを支配してしまえるくらい強かったら、誰が誰のことを好きでも、誰かが死んでしまっても、きっと幸せに暮らしていける。でも、それができないから、私たちは少しでも幸せな明日を掴もうとするし、誰かと何かを分かち合ったり、誰かに何かを与えたりしたいと思う。私たちが絶望だけじゃなくて希望も持てるのは、私たちが弱いおかげだ。

少し話をそらすと、デジタルリマスター版ということで、年配の方々がたくさん観に来られていました。私の把握する限り京都シネマで観るときに私より年下を見たことはないんだけど(笑)、今回は特にそれが際立ってた。老夫婦でいらした方も複数いらっしゃって、当時スクリーンで上映されたときに一緒に観た思い出の作品なのかな、だとか、昔若い頃に観た作品を改めて人生のパートナーと再鑑賞していらっしゃるのかな、だとかを考えると微笑ましかったです。私も10年後にまた観たいな。20代の頃ときっと感じることは違うし、観るたびに新しい感情との出会いがありそうな作品だから。だから、今この作品を観られて良かったと思う。

押し付けがましくなくてあくまで優雅で、でも切なくて悲しくて、好きな映画TOP3に入りそうなくらい気に入った作品だった。最高の日曜日に乾杯。
純