rage30

ロゼッタのrage30のネタバレレビュー・内容・結末

ロゼッタ(1999年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

トレーラーハウスで母親と暮らす少女の話。

ダルデンヌ兄弟の作品に出てくる子供は、どれも逞しいのだけど、本作の主人公ロゼッタは一際逞しい少女だ。
母親はアルコール中毒な上に売春癖があり、ほとんど生活能力がない状態。
そんな母親をヤングケアラーとして支えつつ、手製の釣具で魚を釣ったり、仕事探しに奔走すると。

こんな最底辺の生活をしていると、犯罪に走らないか心配になるが、ロゼッタのモラルは高い。
キャンプ場から出る時はわざわざ靴を履き替えたり、友人からもぐりの仕事を提案されても断ってしまう。
人から施しを受ける事を嫌う、プライドの高さも持ち合わせており、貧しいながらも高潔な人物として描かれる。

しかし、折角得たはずの仕事を理不尽な理由で解雇された事で、徐々に追い詰められていく事に。
そして、自分の世話をしてくれた友人を密告し、仕事を得ようとするのである。
ロゼッタは犯罪を犯したわけではないし、店の商品を盗んでいる人間を告発する事自体は正義と言えるのかもしれない。
しかし、自分の友人を…少なからず恩のある人間を裏切る事は、犯罪を犯す事よりも、人として卑劣な行為と言えるのではないだろうか。

その直前にある、池で溺れた友人を一瞬見殺しにしようかと逡巡するシーンも恐ろしかったし、ロゼッタが高潔な人物として描かれ、応援しながら見てきたからこそ、それとは全く逆の行いをしてしまった事が悲しくて仕方なかった。
結局、「本当にこれで良いのか?」という疑念と罪悪感が晴れる事はなく、仕事を辞めてしまうロゼッタ。
罪や心の重さを象徴するかの様な、重たいガスボンベを運びながら、唐突なタイミングで映画は終わる。
あの後、ロゼッタは友人に「ごめんね」と言えたのだろうか…いや、自らの罪から逃げずに向き合ったロゼッタなら、きっと友人にも逃げずに向き合ってくれるに違いない。

ダルデンヌ兄弟の特徴である、被写体に接近する様なカメラワークは本作で極まっており、文字通り、カメラはロゼッタに密着し続ける。
それは被写体に寄り添うという効果以上に、画面に余白がない=ロゼッタの切羽詰った心情を表している様にも感じられた。
ロゼッタを演じる、エミリー・ドゥケンヌの身体表現も素晴らしく、解雇に抗議して暴れ回る姿などは、子供ならではの切実さが痛い程に伝わって来る。

説明を省き、能動的に理解する事を要求する脚本も洗練され、ロゼッタの腹痛の原因は最後まで明かされないし、私自身も最後にガスで心中を図っていた事を、すっかり見逃してしまう始末。(ちなみに腹痛は釣った魚の寄生虫が原因という説があるらしい)
個人的にはロゼッタがスクイズボトルから水を飲む姿が、まるで母乳を飲む赤子の様に見えたのだが、ロゼッタが母親からの愛に飢える少女である事を象徴させていたのだろうか。

ダルデンヌ兄弟の目指している事が、テーマ的にも技法的にも完成された集大成的な一作であり、パルム・ドールを受賞したのも納得。
ロゼッタ法という若年雇用をサポートする法律が制定されたという逸話も含め、現時点でダルデンヌ兄弟の最高傑作である。
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