ナツミオ

独裁者のナツミオのレビュー・感想・評価

独裁者(1940年製作の映画)
4.5
WOWOW録画鑑賞
(レコーダーの肥やしからサルベージ)
ジョジョ・ラビット繋がりでヒトラーを痛烈に批判した反戦コメディの名作を久し振りに鑑賞

アカデミー賞5部門ノミネート(作品・主演男優・助演男優・脚本・作曲賞)

1940年米作品モノクロ・トーキー
監督・脚本・製作・主演 チャールズ・チャップリン
音楽 メレディス・ウィルソン
出演 ポーレット・ゴダード ジャック・オーキー ヘンリー・ダニエル レジナルド・ガーディナー ビリー・ギルバート

第一次世界大戦末期の西部戦線・架空の国トメニア軍の一兵士のユダヤ人男性(役名無し・仮の名「床屋のチャーリー」とする、演・チャップリン)は戦場で負傷し記憶を失い病院に20年間入院する。
その間にトメニア国は政変でアデノイド・ヒンケル(チャップリン、二役)が独裁者となり自由と民主主義を否定しユダヤ人を迫害する独裁国家に変わっていた。
病院を抜け出した床屋のチャーリーは自身の家があるユダヤ人街へ帰ってくる・・・

製作年は1940年。
1939年9月独軍のポーランド侵攻で始まった第二次世界大戦の翌年公開。
撮影開始がポーランド侵攻の数日後、構想含めて数年前から準備し、当時アメリカではユダヤ人問題はタブー視され、他の映画会社では作品化できない中、チャップリンは自身の映画会社を持ち、私財を投げ打って製作費を捻出。
映画が転ければ破産という中で完成し世に送り出し大ヒットした意義は大きい。

偶然にも似た2人、独裁者ヒンケルと迫害されるユダヤ人床屋のチャーリーそれぞれが描かれ、終盤に2人が出会うことは無いが、ある事件をきっかけに入れ替わることになる。

床屋のチャーリーと周りのユダヤ人居住区の住民や突撃隊の迫害、隣に住むユダヤ人女性ハンナ(ゴダード)とのロマンスが描かれる一方、独裁者ヒンケルの日常も描かれる。

ヒンケルのモデルは当時のドイツの独裁者アドルフ・ヒトラー。

側近達も、内相・宣伝相ガービッチ(ダニエル)はゲッペルス。
顔かたちが良く似ている。

戦争相ヘリング元帥(ギルバート)はヘルマン・ゲーリング。
体型もそっくり!

隣国のバクテリア国(モデルはイタリア)の独裁者ベンツィーノ・ナパロニ(オーキー)はベニト・ムッソリーニ。これも雰囲気が良く出ている。
しかもアカデミー賞助演男優賞ノミネート。

侵攻することになる隣国オーストリッチは、オーストリア
このあたりは1938年ナチス・ドイツのオーストリア併合がモデル。


本作品はチャップリン初のトーキー作品。
始まりの第一次世界大戦終盤の西部戦線の描写は、塹壕戦や突撃、砲撃シーンなど陳腐さは無く金をかけて撮っている。
不発弾を調べるシーンで床屋のチャーリーが近づくと不発弾がコンパスの針の様に回転するところや、突撃シーンで知らぬ間に周りは敵兵だらけとか、あるあるシーンで笑う。
街へ帰ってからも、チャーリーお馴染みの姿(山高帽、チョビヒゲ、ぶかぶか服、ドタ靴、ステッキ)でガニ股歩きの姿は本作品が最後の登場。

床屋のチャーリーと突撃隊員達のドタバタは、今までの作品を踏襲した場面だが楽しい。

そんな中にも、突撃隊の暴力やリンチ、ユダヤ人迫害、強制収容所(ホロコーストが起きる前で絶滅収容所では無い)などの描写もあり、只のコメディでは無い。

ヒンケルの日常も全て自分で決断するので秒刻みで忙しい様がコミカルに描かれる。
ヒンケルがモデルになる肖像画や彫刻に与えられる時間は数秒‼️

世界を治める夢想で地球儀に模した風船を飛ばすところは超有名シーン。

隣国バクテリア国独裁者ナパロニ
との会談、交渉シーンでのお互いの主張を譲らず相手が聴いていないのに早口の応酬、そして料理でのバトルからの悶絶場面も笑う。

チャップリンは、ヒトラーの演説フィルムなどで語調や動作・仕草を徹底的に研究し役作りした。

そしてクライマックスの床屋のチャーリー演説シーンも名場面。
オーストリッチに避難したハンナや世界の人々に向けたメッセージは今現在でも色あせない普遍のメッセージだった。

AFI喜劇映画ベスト100(AFI's 100 Years...100 Laughs)第37位に選出

アメリカ国立フィルム登録簿に登録
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