青山祐介

ナサリンの青山祐介のレビュー・感想・評価

ナサリン(1958年製作の映画)
4.5
『ナサリンはわたしにとてもよく似ている … 』(ルイス・ブニュエル)
自己韜晦の映画作家、ルイス・ブニュエルの「きわめて個人的な作品」であり、「ナサリン」を理解することが、ルイス・ブニュエル読解の鍵を見つけることになります。原作者であるスペインのベニート・ペレス・ガルドスは、「影響を受けたただ一人の作家」であると、ブニュエル自身が述べています。後年1970年に「トリスターナ(邦題:哀しみの…)」が映画化されましたが、いずれも翻訳が見つからないため、ガルドスの小説を「ナサリン」解釈の参考にすることはできませんでした。
神父ドン・ナサリオとは何者なのでしょうか?
1.マドリッド生まれのカトリック司祭(ブニュエルも14歳までイエズス会の中学校で厳格な宗教的教育を受けています)。
2.メキシコに赴き宣教を行なう―「北から送られて来た妙な宣教師の一人」(ブニュエルは1946年にメキシコへ渡り、1949帰化、1983年死ぬまでこの地に留まる)
3.信仰の懐疑に悩める受難者なのか?『(教会荒らしとの対話)神父の生き方は何の役に立つのか、あなたは善の側で、俺は悪の側で、どちらも何の役にも立たない。』
4.改悛した狂人、愚かな道化、または聖職者になったドン・キ・ホーテなのか?
5.聖職に忠実な聖者なのか?破戒者なのか? 異端者なのか?
6.信仰を喪失したカトリシズムの批判者なのか?

それでは、ルイス・ブニュエルとは何者なのでしょうか?
1.シュールレアリストなのか?自然主義者なのか?
2.無政府主義者なのか?共産主義者なのか?反教権主義者なのか?
3.性的倒錯者(足フェチ)なのか?
4.無神論者なのか?『わたしが無神論者であるのは、神のおかげである。』
そして、最大の「鍵」はラストシーンにあります。様々な解釈がなされているようですが、ブニュエルの故郷カランダの太鼓の連打に、私たちが心の深淵で何を感じるのか、そして受容されたその響きの意味を捉えることが、私たちそれぞれの証しとなります。
『(ナサリン)は、こんな悲劇的な経験のあとで一体どうなるのか? それはわからない… 』ルイス・ブニュエル
青山祐介

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