こたつむり

文学賞殺人事件 大いなる助走のこたつむりのレビュー・感想・評価

4.4
★ 死ぬまで助走、飛ばずに想像。

これは控えめに言っても傑作。
筒井康隆先生の傑作『大いなる助走』を見事に映像化。「すげーものを観た」という知的好奇心を満たしてくれる作品なのです。

物語としては“文学”を題材として、痛烈な皮肉を交えて描かれたコメディ。差別意識を揶揄する笑いも含んでいますから、モラルに縛られた現代では作れないと思います(山城新伍さんの演説は…絶対に無理でしょうなあ)。

また、同人誌を発行する地方のサークルから始まって、文壇、出版社、文学賞と切り込んでいきますからね。業界の反発があることは必至。話によると、原作執筆時、掲載誌の編集部に怒鳴り込んだ御方(大きな唇の小説家)もいたとか。うん。お気持ちは分かりますよ。

でもね。
“文学”とは我が身を切り裂くこと…というのは大仰ではなく。自ら腹を掻っ捌いて臓腑を取り出す覚悟があるからこそ、面白いわけで。一般人ならともかく、同業者が「バカにするな」と言ったところで、軸がズレた批判にしかなり得ないのです。しかも、本作では原作者が出演し、自らを卑下しながら笑いに変えていますからね。説得力が違うのです。

ただ、それでも難を言うならば。
本作の瑕疵ではありませんが…昭和の香りに“かび臭さ”を感じたらダメでしょうね。黒電話や湘南色の電車に「懐かしいなあ」と思う僕にはちょうど良いのですが、やたらと演技が大仰ですからね。「古臭い」と感じる向きにはオススメ出来ません。

それと、現代において“文学”というのも…少し敷居が高いですかね。でも、主軸は“文学”というよりも“創作”。排他的に見えても敷居は低いのです。特に“創作に係わる人”ならば、蟹江敬三さんの台詞が魂に響くと思いますよ。

まあ、そんなわけで。
創作とは何か。生きるとは何か。
深淵なテーマをブラックユーモアに昇華し、価値観を揺さぶってくる衝撃作。洋画では味わえない世界が此処にはあります。筒井康隆先生の筆致に抵抗が無ければ…オススメです。うけけけけけ。

ちなみに主人公を演じたのは佐藤浩市さん。
思慮の浅いボンボン(地方の名家で育った次男)という立ち位置から、文学の世界に足を踏み入れ、狂気に染まっていく様を見事に熱演していましたよ。
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