歩くチブ

文学賞殺人事件 大いなる助走の歩くチブのレビュー・感想・評価

5.0
日本映画史に残る文学賞レベルの面白さ


「私怨話でない文学があるんですか」

「ソクラテスの妻だぞ」

「俺のケツの童貞を返せよ」


汽笛を鳴らしながら走る懐かしの東海道線をバックに文学賞殺人事件のタイトルが打たれ、その上を大いなる助走という赤い文字が流れる。

地元の大企業、大徳商事の会社員市谷京二(佐藤浩市)が陸橋の上で同人誌「焼畑文芸」を拾ったことをきっかけに文学とは名ばかりの下衆い人間世界に足を踏み入れる。

全員土下座にインテリ女子高生のセックス、権威が口から泡を吹きながら捲し立てれば、文学に取り憑かれた果てに自殺、他人の成功を悲しみ不幸を喜ぶ。恨みつらみのミカン箱。男色、人妻、万歳三唱、ああ実に下衆い。

人間の自尊心を、権威の俗物性を、他人を批判することで保たれる自我を、文学を手段に繰り広げられる自己陶酔を、文学賞に取り憑かれ翻弄される愚かさを、皮肉たっぷりの大いなる笑いに変えた最高のエンターテイメント。

出てくる人達はみんな個性的でありながら、どこかで見たことのある人間の醜いそれだった。

よくもまあこんな面白い映画を作れたものだ。

平成恐るべし。
歩くチブ

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