mh

文学賞殺人事件 大いなる助走のmhのレビュー・感想・評価

-
地方同人誌事情から中央文壇事情までを誇張してこれでもかとばかりに盛り込んだシニカルコメディー。
DVDに収録されてる対談によれば、原作が発表された当時も物議を醸したけど、映画公開時も当時は存命だった松本清張が激おこだったとのこと。
ちなみに原作者の筒井康隆が直木賞候補になったのは第五十八回、五十九回、六十七回。ぐぐれば審査員がわかるので、登場人物のモデルを把握することが可能。もちろん松本清張も名を連ねてる。
原作通りのコメディタッチにしたおかげで、パーティー土下座合戦という難しい絵が浮いてない。このあたりは鈴木則文の才能だと思ってる。
なかでもいちばんすごかったのはまとめ方。映画で扱ったのはあくまで小説家のたまごだったけど、鈴木則文はそこに、映画界はもちろんさまざまなジャンルで助走を続けている人々を意図的にかぶせている。
長い揺籃期に甘んじているひと、思ったようにキャリアが重ねられないひとへのレクイエムであると同時に、報われない彼ら彼女らへのエールにもなっている。
そこには多分、大ヒットシリーズをいくつも生み出したのに、思うように映画が撮れない監督自身も含まれている。SF作家であるというだけで筒井康隆他が軽視されたのと同じように、映画界ではコメディが軽視されている。そのあたりの符合もきっと偶然じゃないだろう。
ググると鈴木則文が自費を投じてまで作った映画とあり、その心意気に胸が熱くなる。
ラ・ラ・ランドさながらのラストの時系列のいじり方がすごいうまかった。
カタストロフと第九の親和性を見いだしたのは、エヴァよりも六年先んじている。
鈴木則文もこの映画ももっと評価されるべきだと思う。
そしてやはり、フーマンチュウ博士などいなかったのだ。
とてもいい映画! 面白かった。
mh

mh