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スターリングラードの一人旅のレビュー・感想・評価

スターリングラード(1993年製作の映画)
5.0
1942年に発生したスターリングラード攻防戦をドイツ側の視点で描いた戦争大作。

大規模且つ熾烈な市街戦の模様を描いたものかと思っていたが、意外にもその予想は裏切られた。
市街戦での激闘は前半に少し描かれているに留まっている。
その代わり、雪原で敵の戦車隊と対峙、戦闘の場面は一つのクライマックスだ。

映画全体としてみると、極寒の戦場という自然の猛威や厳しさ、そして戦場で命を擲って戦うことへの疑問を投げ掛けた作品だった。

故郷にいる恋人や母親のことを想い、一刻も早く母国へ帰還したいと思ったり、出会ったロシア人女性に対し「もう殺しはたくさんだ」と正直な気持ちを吐露する場面がある。

ヒトラーへの忠誠を誓わされ、戦いを強いられる兵士たち。組織の末端で、最前線で戦うドイツ兵士たちは連合国兵士と同様、感情を持った生身の人間であることに疑いはない。
敵・味方、正義・悪も関係なく、兵士たちは戦争の犠牲者となってゆく。

そんな兵士たちの感情や戦況全てを飲み込んでしまうロシアの極寒。
観ているだけで猛烈な寒さが伝わってくる。
「寒さはありがたい。何も感じなくて済む」
という兵士の言葉は生きることへの諦めだとしか受け取れないし、非情に切ない言葉だ。

戦後、無事母国に帰還できたのはほんの僅かだった。
驚異的な生存率の低さ。
その数字もこの映画を観れば納得だ。

生きられない。
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