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GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊のBUSSANのレビュー・感想・評価

GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊(1995年製作の映画)
4.6
「AKIRA」同様に、全世界で熱狂的なファンに崇められ、「マトリックス」の元ネタともされる今作を、ハリウッド実写化公開に当たって久しぶりの鑑賞です。

士郎正宗の原作コミックスは未見です。
古くからの原作ファンからは賛否両論の今作ですが、僕は文句なしに最高に面白いと思いました。


〜あらすじ〜
企業のネットが星を被い
電子や光が駆け巡っても
国家や民族が消えてなくなるほど
情報化されていない近未来ー

西暦2029年、技術革新による巨大化されてネットは世界的な規模になっていた。自らの脳を【電脳化】することにより、個人は直接ネットワークにアクセスが可能となり、また脳以外を【義体化】(サイボーグ化)することにより身体機能の向上が可能となった。

主人公である草薙素子(少佐)は脳と脊髄を残し、カラダ全てが【義体化】されている。彼女が所属する公安9課、通称【攻殻機動隊】は、世界に蔓延る犯罪を阻止する内務省直属の組織である。

推定国籍アメリカ、その他年齢、性別、経歴全てが不明の国際手配中のハッカー、通称「人形使い」が日本に現れたとの情報が入る。素子をはじめとする荒巻や、バトー、トグサらの攻殻機動隊はそこ行方を追うのだが…



冒頭、主人公の「少佐」がビルの屋上から飛び降りるシーン、乱立するビルの合間を縫って犯人と思しきハッカーを追い詰めて、水辺で背面回し蹴りを喰らわすシーン、終盤の多脚戦車相手に奮闘するシーン、どれを取ってもスタイリッシュでカッコ良く、近年出回っているSF映画に多大な影響を与えていることが容易に解ります。


割と複雑な設定なのでSFに慣れていない人は置き去りにされますが、却って余計な説明を長ったらしく見せられて作品そのもののクオリティを下げられるよりはコンパクトでこれまたクールだと思いました。


登場する公安9課のキャラもそれぞれ魅力的で、主人公の少佐こと素子は、冷静沈着だが、また翳りのある部分を持ち合わせている、それが今作のテーマになっており、それに関しては後述で。

冒頭の同じ公安9課に所属のバトーとの【電脳】を介しての会話では、「お前の脳、ノイズが多いな」と言われたことに対して、少佐は「生理中なの」とニヒルに応える。なんてドライでユーモアに富んだ返しなんだと感心しました。言うまでもないですが素子は全身サイボーグなので、生理中なんてことは有り得ないのです。




ビジュアル、キャラクター以外に、音楽も一級ですし、何と言ってもテーマが素晴らしい。

※以下、かるーいネタバレです。

タイトルの「GHOST IN THE SHELL 」とは、【SHELL(=義体)】の中にある【ゴースト(=魂)】。

主人公の素子は、暗い海にダイビングをする。同伴していた同僚のバトーからは、「サイボーグが非番の日に潜りに来るなんて」「海に潜るってどんな感じだ?」という問いに対して、

「怖れ、不安、孤独、闇、それからもしかしたら希望…海面へ浮かび上がる時、今までとは違う自分になれるんじゃないか、そんな気がする時があるの」

更には続けて、

「代謝の制御、知覚の鋭敏化、運動能力や反射の飛躍的な向上、情報処理の高速化と拡大。【電脳】と【義体】によって、より高度な能力の獲得を追求した挙句、最高度のメンテナンスなしには生存出来なくなったとしても、文句を言う筋合いじゃないわ。」「人間が人間であるための部品が決して少なく無い様に、自分が自分である為には、驚くほど多くのものが必要なの。他人を隔てるための顔、それと意識しない声、目覚めの時の見つめる手、幼かった頃の記憶、未来の予感。それだけじゃないわ。私の【電脳】がアクセスできる膨大な情報やネットの拡がり、それら全てが私の一部であり、【私】という意識そのものを生み出し、そして同時に【私】をある限界に制約し続けるー」


また別のシーンでは、


「私みたいな完全に義体化したサイボーグなら誰でも考えるわ。もしかしたら自分はとっくの昔に死んじゃってて、今の自分は【電脳】と【義体】で構成された【模擬人格】じゃないか…いや、そもそも初めから【私】なんてものは存在しなかったんじゃないかって。(中略)もし【電脳】それ自体が【ゴースト】を生み出し、魂を宿すとしたら、その時は何を根拠に自分を信じるべきだと思う?」


…素晴らしい。絶句です。

これらの台詞は同僚のバトーとの会話の中で素子が独白するかの様に吐くのですが、同時にこちら側(我々観る側)にも投げ掛けている。このシーンこそが本作のテーマなんです。

生命、進化、アイデンティティ…

僕が愛して止まない、フィリップ・K・ディックの「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」を彷彿とさせました。

それからのカタルシスすら感じるラストも文句なしの終わり方を遂げ、この濃厚な仕上がりで僅か80分という時間で収め切ったのだから見事という他ない。
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